The ending of a hero


翌朝、凌は見知った気配で目が覚めた。家の前までは接近してこなかったが何者かが来ている。だがしばらくの間立ち止まっただけですぐに立ち去ったようだ。凌は警戒しながら外の様子を伺った。


「…隼薙とアーク」


既に遠ざかっていたが少しだけ見えた後ろ姿は確かにあの二人だ。時々こちらを振り返っては喧嘩しているように見えた。ここまで来ておきながら何がしたかったのか意図が読めない。凌は歩いて家の周りの異常を見回るが特に何もない。本当に意味が分からなくなりかけたところでポストに投函された手紙を見つけた。ここで疾風の力で投函したのだと合点がいく。


「……」


全く気づけなかった。これだけ軽量な、しかも紙を遠距離から狙いすまして風で運ぶ。さぞ繊細な行程だが彼らもまた腕を磨き続けているのか。凌はもう一度隼薙のいた方向を一瞥すると家の中へ戻った。


「……」


恐らく皆が自分へ宛てた手紙なのか。メールではなく手紙という粋な提案をしたのは恐らく菜奈美あたりだろう。だが素直に手紙を開くのは躊躇われた。そもそも先程の隼薙が本人である保証はなかったし封筒に細菌が仕込まれている罠の可能性もある。少し感触を調べてから無害であると判断したがそれでも開封するのを躊躇う。


「はぁ…」


ここで開けてしまえば捨て去ったものが、不要だと蓋をしたものが溢れ返ってしまい昔の東條凌に戻ってしまう気がした。昔の仲間の動向は必要以上に探らないスタンスだったが最後は単純な興味で手紙を開いてしまう。独りよがりの正義が昔の仲間にどんな影響を与えているのか気になるところではあったから。


「……」


内容は各人とも思い出話、それぞれの近況とこれからの予定、凌の現在を心配する声が多数を占めた。皆と袂を別ったあの時点での凌を指しているようでどれも想定の範囲内だ。意外だったのは瀬上の娘からも直筆で手紙があったこと。子供の言葉は父親の検閲に引っかかったようだがまた来てほしいと書くのは許されたらしい。読んだ瞬間に手が力んでくしゃりと皺が寄った。


「…クソ」


凌は椅子に深く座り込んだ。肘当てに左肘を置くと手に頭を添えて項垂れる。そしてトドメは最後に目を通した一枚。これだけが明らかに内容が違っていた。短文で差出人の名前もない、角ばった筆跡と強めの筆圧。


【ありがとよ。あの時は助かったぜ】


文字からして主張が激しいあの男なのは明白だった。
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