The ending of a hero


先程からしばらく経ち、一同の話題は互いの近況報告に入っている。瀬上以外の面子にとっては数万年ぶりの者が多くそれは長い話になっている。真面目な話がつまらないのか途中から娘は眠そうに目をこすり始めた。


「ガラテアが亡くなったのは残念だったな…」
「でもあいつの犠牲があったからこそ俺達は助かったんだ。あの状況でガラテアはよくやってくれたよ。俺が不甲斐ないばっかりに…」
「レリックもだけど教祖って奴も出鱈目な強さだったんだろ?あの状況じゃ仕方ねぇって」
「…あいつは俺の中で生き続けている。だから俺はガラテアの分まで恥じない生き方をしなきゃな。皆後で弔ってやってくれ」


各々が重い返事を交わす。皆地球を離れていても仲間はどこかで生きているという希望が旅を続けれる理由にもなっている。無限に生きる爾落人の仲間、精神的な支えを一人でも失うのは何歳になっても辛い出来事だった。


「…今日は世莉と八重樫にも会えると思って来たんだけど」
「あぁ、あいつらは今地球にはいないよ。ちょっと前にハイダと八重樫ならここに来たな」
「へぇ…あの二人はなんて?」
「あの二人、交代で地球の防諜活動に就くって言ってたわ」
「ぼうちょう?」
『敵のスパイ活動を取り締まる事を言います』
「なんかカッコいい!リリーちゃんにピッタリな気がする!」
「確かに思念と捕捉なら取締りには適切な気がするけど」
「まぁ今の地球をどうこうしようって悪者はいないだろうし実質的な隠居に近いかもね」
「八重樫が隠居ね。似合わんなぁ」
「…ハイダさんと二人で?」
「あくまで仕事上のバディだからどうかしら」
「ははは…互いの人生のバディかも」
『一樹殿、ここにいない人達の事をあまり面白おかしく言うものではない』
「すんません…」
「でも復讐を請け負う宇宙工作員とかたまにいるから備えは必要だと思うけどね。あの二人に任せてられるから私達も地球で隠居できるわけだし」
「世莉ちゃんは?」
「世莉は自由に宇宙を放浪するって言ってたわよ。あの人のおかげでコールドスリープする理由もなくなったわけだしね」
「ざーんねん。みんな久しぶりに会えるかもって思ったのにな~」
「おいおい、そう言うパレッタ達はこれからどうすんだ?」
「今から北極星を目指してくぜ」
『今はポラリスにある。片道400年くらいだな』
「宮代、お前は?」
「カミーノの嘱託スタッフとして就職予定なんすわ」
「そうか。皆やる事があるのは結構なんだがお前ら戦闘は自重しろよな。地球人は超好戦的民族みたいなイメージになってんぞ」
「えぇ…」
「あくまで自衛と人助けの範疇だよ。俺は問題ない」
『聞いたか隼薙、お前の事を言っているのだ』
「俺だってそうだわ!」
「ハイダも言ってたわ。地球人というだけでハクがついて困るって。行く先々で輩に絡まれてトラブルになりやすいみたい」


旧日本丸メンバーは粗方名前が出た。瀬上はこれ以上誰かが思い出さぬよう次の話題を繋げるが思わぬ伏兵の一言で瓦解した。


「とーじょーおじちゃん今日はいないの?」


自分の娘だ。そうそう!リョー君だった探してくるわと、パレッタは何故か瀬上邸の中を捜索し始めた。菜奈美は娘を瀬上に託すと慌ててその後を追いかけていき、やがてパレッタのはしゃぐ声が聞こえてきた。


「ひーちゃんサン、向こうで一緒に遊びまセンか?」
「うん!」
「頼む」


今までの会話で緊張が解れたのか、娘は二つ返事だった。チェリィは二人分の取皿を片付けると共に庭へ出ていく。瀬上は横目で見送った。


「一樹は凌と会ってないの?」
「まだだね。一応先の教団戦で近くにはいたんだけど、救出後すぐに行方を眩ませたらしいよ。全て終わってオレが駆けつけた頃にはもういなかっんだ。八重樫さんハイダさんともまともに話さないままどっか行っちゃったみたい」
「そうなのか…」


これまた残念そうに肩を落とす隼薙と弦義。その様子を見た瀬上は一呼吸置くと思案しながら口を開いた。この場に娘がいないのはチェリィのアシストかどうか、判断がグレーだが話すなら今が好機だ。


「…あいつなら地球に住んでるはずだぜ。しかもこの街に」
「え?じゃあ会いに行こうぜ。折角だし」
『そうだな。瀬上殿、凌殿の住居は何処だ?』
「知らん」


即答する瀬上。


「ただあいつには年中勝負を挑まれるからここの近くには住んでると思う。それだけだ」
「いやいやもっと近況報告とかしましょうよ」
「普通はご近所付き合いとかあるだろうに。冷たいんだな」
「いや、一方的に挑まれるだけで会話という会話はねぇよ?それに興味ない。俺は東條とひーを出くわさないようにするので忙しい」
「ニアミス?何か悪い事でもあるの?」
「あいつが勝負を挑んで俺があしらった時にな、その光景を見たひーがヒーローショーと勘違いしたみたいなんだ。日曜朝にやってたヒーロー番組がデパートでショーやってたろ?そんな感じ。そっから次はいつやってくるんだとか、また見たい!とかしつこくてな」
「まぁ、凌おじさんとひーちゃんを引き合わせるのに抵抗あるのはオレも分かる気がするけど」
「あしらった?割と接戦だったりするんじゃ?」


瀬上は咳払いをして誤魔化した。


「まぁ、冗談は置いといてだな、あいつたまに長期間いなくなるし。単純に地球外へ出掛けているだけの場合もある」
「さすがだ。修行?」
「俺が知るか。だが一つ言えるのは、東條がいなくなると必ず悪者の訃報が流れるという事実だけだ。そして少ししてから地球に帰ってきてまた俺は東條に付き纏われる」
『確かに。最近少しずつだが悪が討たれているな』
「そうそう、最近もテンペラ星人だかエンペラー星人だか…ほらあの暗黒宇宙大皇帝みたいな厨二拗らせた二つ名のジジイがいたけど暗殺されたって報道されてたっけ」
『エンペラ星人だ。宇宙史上最悪の侵略者くらい覚えておけ』
「なんだと!」
『他にもハット族、ガルト爾落星人、グラキエス、ヴァルキューレ、グリーヴァス。喰ウ者が現れる前後も昔からすると頻繁に悪の者が暗殺されたと聞くようになったな』
「なるほど。体制側との癒着が噂されて捜査が及ばなかったり、表舞台を裏から操っていると言われていた悪どい連中ばかりだ」
「それ全部本当に凌が殺ってるんすか?」
「まぁ状況証拠だけどクロだろうよ」
「その中に含まれる瀬上さんて…やっぱ悪どいんだなぁ」
「いやそれは東條の私怨だろ。俺は悪くない」


瀬上はまた冗談ぽく誤魔化した。


「もしかしたらあいつ、昔の仲間とは会いたくないのかもしれないぜ。前に四ノ宮達やハイダ達が来た時も前後二日間くらいは現れなかったぞ」
「え?」
「俺と再会した時東條はプレデターの仮面をつけていた。余程の覚悟があったんだろ。ただハクをつけるためだけにウルフと一緒にいたわけじゃないだろうし。あの仮面自体がプレデターとして認められた証だと聞くし、もしかすると本気で悪を討つ事を考えているのかもな。線引きは謎だが」


瀬上はあえて仮定として凌の現状を解説した。クーガー、世莉、ハイダ、八重樫へはありのままを話したが、他の面子に話すのは皆にとってショックが大きいと思われた。以前の青臭さの抜けない先鋒感からの脱却。この世の影となる選択をした凌に昔の仲間から不用意に接触されるのは都合が悪いかもしれない。瀬上なりの配慮だ。その割には自分だけ向こうから絡まれるのだが。


「そうか…」
「そんな…」
「なんで…」


静まる一同。


「なんで!なんでコーちゃんとは会って私とは会いたくないの!?」


いつの間にかリビングに戻っていたパレッタ。そのまま椅子に座っている瀬上の襟を両手で掴んで揺さぶった。瀬上は既に抵抗する元気もないのかぐわんぐわんと頭が振られる。


「ねぇねぇなんで!リョー君にとって私とコーちゃんの違いって何?!」


なんで、と言われれば性別以外に理由は一つしかない。先の教団戦で共に地球の衛星軌道上を死守した際、己が口走った台詞が過ぎった。誰が見ても劣勢だった状況の中、昂った感情のまま強がりで言ったのだ。


『東條、この戦いを生き残れたら、その時は相手になってやるよ』


「ああああぁあんな事言わなきゃよかったあぁぁあ!!くそぉぉお!!」
「え?何を言ったの?!ねぇってば!」


人目がなければ地団駄を踏み、年甲斐もなく転げ回っているだろう。それだけ件は後悔の根が深い事案だった。パレッタに物理的に揺さぶられるのは気が紛れて却って都合がよかったのかもしれない。そんな瀬上をよそに一樹は決起する。


「凌がこの街にいるなら捜してこようかな」
「俺も行くよ」
「俺も俺も」
「いやいいよ。捜すって言ってもドロイドを飛ばすだけだし。報告が来たら出よう」


隼薙と弦義を制し、一樹はリストコムを操作して電脳巨艦に指令を送った。格納してあるドロイドを飛ばし、目的の人物を捜索せよと。一樹は結果報告だけを待てば良いのだ。


「そう?じゃあ…」
「捜索はお手の物、オレから逃げられると思うなよぉ」
「首輪をつけたまま言われても締まらないな…」
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