The ending of a hero
着陸した一行は船外へ降り立つと、草原を踏み締めた。所々に朽ちた兵器が廃棄されており、その全てに草花が宿り小動物が住み着いている。地球にとっての平穏が訪れたのだと星自身が告げているようだ。
「そうそう…これよね」
少し湿った土に長閑な風が運ぶ自然の香り。似たような環境の惑星は他にあれど生物の営みから紡がれる地球由来の環境は他には代えられないと皆の本能が感じていた。
「おーい!」
手を振りながらパレッタ一行の元へ笑顔で走ってきたのは一樹だ。変わらぬ髪型、体型だが全身を最新の電子機器で装備。リストコムやサングラス型の通信端末を携え、日本が存在していた頃の歌謡曲のスターのような格好だった。走り方も心なしか旧友へではなくファンにサービスするスターそのもののようだ。
「みんな!久しぶり!」
「カズっち!服以外変わってないねぇ!」
「そういうパレッタさんこそ変わりすぎでしょ!そのファッション別の銀河系の流行りなんすか?」
久しぶりに昔の仲間に会えた嬉しさか、全体的に一樹のテンションは上がり気味だ。パレッタも負けず劣らずハイタッチをかますと一樹も飛び上がって応じた。
「弦義も隼薙もアークも久しぶり!君たちはそんなに変わってなくて安心だよ」
『一樹殿、なんというかその…変わられたのだな』
「久しぶりだね」
「元気っぽくて安心したよ。あれ?今日奥さんは?その首輪…」
隼薙は疑問を口にした。最後に会った時は見たこともない女性の爾落人と一緒にいたはずだ。結婚しているとか何とか言っていた気がするが。
「今は別行動中だよ。それにこの首輪はね、愛の印なんだ…」
『そうか…世界には…いや宇宙には色んな愛の形があるのだな…』
一樹は恥ずかし気もなく首に巻かれた赤いベルトを見せびらかす。能力封じのような実用的なものではない、リード線を付けられる事から明らかに愛玩用のそれだ。これについて深く追求してはならないと誰もが考え、アークが言葉に詰まった様子から隼薙も失言だったと自覚した。パレッタでさえ口を噤む始末だ。
「んん?チェリィちゃんは?一緒のはずだよね。まだ寝てるの?」
「菜奈美ちゃんと会えたら起こしてだって」
「あー、相変わらずだなぁ…」
「一樹、瀬上家までの道は分かるの?」
「あぁ、それなら今から…」
今度一同に浴びせられたのは男の怒声だった。懐かしい声、懐かしい顔、サンダル姿の本物の瀬上がこちらへ小走りで向かってきている。一同は数万年振りの旧友であり生来の英雄へ手を振りながら応じたのだが。
「お前ら宇宙船を家の近くに停めてんじゃねえ!近所に悪く噂されるだろ!」
「宇宙船じゃないわよ?私の17番目の子供、XVⅡちゃんだよ!」
「どれも同じだ!ギンギンに装飾しやがってこりゃ暴走族の集会か!」
「瀬上ぃ!早速俺と勝負し…」
「誰がするか!東條だけで勘弁しろ!」
「あぁ瀬上さん久しぶ…」
「おい宮代!その首輪外せ!子供の教育に悪い!」
「無茶言わないでくださいよ!これ婚約指輪のようなもんなんすから」
「教育だなんて…コーちゃんたら、すっかりパパなのね!」
「ったり前だ!東條みたいに変に拗らせた大人になるのだけは親として避けなきゃならん!爾落人の一生は重いからな!」
「久しぶりの再会なのに怒ってばっかり…ねぇ、笑顔笑顔!」
「誰のせいだ!血圧上がりっぱなしだわ!」
『瀬上殿、少し太られたのだな』
「ぐっ…」
デコトラの様相を呈しているロボット、電脳巨艦の前で再会早々矢継ぎ早にまくし立てる瀬上。まるで相撲のぶつかり稽古の如く繰り広げられた言葉の応酬は多対一と劣勢を強いられ、アークがトドメとなり酸欠したのか両手を膝について肩で息をしていた。これではまるで満身創痍。たかがこんな状況で教団との激闘を思い出してしまう自分が情けない。弦義は瀬上の肩にポンと手を置いて頷くと、瀬上は小さな声でおう…と返した。分かってくれるのはお前だけだと心の中だけで吐露した。