雲隠


【解説】

※あくまでも古典文法赤点だった宇多瀬の解説ですので、テストに出て不正解になっても責任負えません。古文の勉強をしている方はご自身で調べることを推奨します。



『いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな
(昔平城京で咲いていた八重桜が、今日は平安京の宮中で美しく咲いております)』
(伊勢大輔 百人一首)
┗伊勢大輔(989年-1060年)は中古三十六歌仙と女房三十六歌仙の一人です。作中でもあったように、1008年頃に一条天皇の中宮・上東門院藤原彰子に仕えました。
この歌は彼女の家集(自叙伝みたいなもの)の『伊勢大輔集』の中で、作中の様な場面で彼女が一条天皇の前で詠み、周囲を喜ばせた歌として登場します。そこから藤原定家が百人一首に選んだとされています。ちなみに、これに対して中宮様(紫式部さんという説も)が八重桜と九重(宮中)を更にかけて、春が重なってきたみたいね!とナイスな返しをしています。
しかし、役目を譲った紫式部も中々だけど、一番は新人が献上品を受けとる大役をしてるのに、ただ受けとるんじゃ面白くないから、気の効いた歌をお礼に詠めって言った天皇も中々人が悪いと思う。それだけ、彼女の才能を信頼していたんだろうけど……。



『しでの山こえてきつらむほととぎ すこひしき人のうへかたらなむ
(死出の山を越えてやって来たのだろうか。ほととぎすよ。恋しい我が子の身の上を語ってほしい)』
(伊勢の御 拾遺和歌集)
┗ 伊勢(872年頃 - 938年頃)も三十六歌仙、女房三十六歌仙の一人です。作中の通り、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の子を生んだので、伊勢の御(御息所)と呼ばれてます。
本当は、拾遺集に題というか、説明文があり、そこに子どもが死んだ翌年にホトトギスの鳴き声を聞いて詠んだものですと書かれています。つまり、作中のように死んですぐに詠んだ歌ではないのですが、そこはフィクションです。
ちなみに、この伊勢さん。かなりスゴい恋愛をしています。元々宇多天皇の奥さんである温子様に仕えていて、奥様の弟と付き合っていたけど破局して一度里帰りしてます。そして復帰後、今度は奥様の兄や旦那様のもう一人の奥様の甥っ子と付き合って、遂には旦那様である帝の子を生んでいます。通い婚で多妻制の時代とはいえ、昼ドラもビックリなスゴい恋愛をしています。(若しくはジャンプのシステムですね。ラスボスの帝までゲットしてますが…)
そして、我が子を失い、帝も出家してしまった伊勢さんですが、その後は帝の息子(作中でも語られましたが)と結婚し、歌人の中務を生んでいます。
つまり、帝から見ると子どもまで生ませた愛人が息子の嫁になった訳ですね。(どんだけぇ~!)



『忘るなよ別れ路におふるくずの葉の 秋風吹かば今かへりこむ
(忘れるなよ。別れ道に生えるクズの葉が、秋風が吹けば裏返るように、私は秋になったらすぐに帰って来よう)』
(詠み人知らず 拾遺和歌集)
┗葛というのは、マメ科の植物で葉っぱが大きく裏が白い為、強い風が吹くとひっくり返りやすいので、「秋が来たなぁ」と秋風が吹いたことを意味する表現として使われたのでしょう。マメ科で多年草の為、当時は道端によく生えてる植物で、旅立つ時に目に留まったんでしょうね。
それにしても、「忘れるなよ、俺は秋には帰ってくる。すぐに戻るからな」って、演歌のような内容です。日本人は昔からこういうシチュエーションが好きなんでしょうね。
元々この歌は、 坂上是則さん(生年不明-930年)が集めた家集『是則集』に書かれているものですが、この人の家集は自分のことじゃなく、「話題の歌人、是則が選んだこの和歌はスゴい!」みたいなオムニバスベストセレクションといった位置づけで、彼の周辺にいた誰かが詠んだものだとは思いますが、作者不明となっています。



『かぎりなき雲居のよそに別わかるとも 人を心におくらさむやは
(果てしなく遠い雲の彼方へ旅立つように、俺は貴女の姿の見えないところへと逝く。だが、別れても心の中では常に貴女に付き添っている)』
(詠み人知らず 古今和歌集)
┗本来は、当然ですが旅立つ人も生きており、帰ってこれないような遠方にいってしまうけど、俺の心はずっとお前のそばにいるよ!って、遠距離恋愛でメールに書きそうなフレーズナンバーワンに入りそうな内容です。
ちなみに、この歌は恐らく作中よりも五十年以上前、下手したら一世紀以上前に詠まれたものかもしれません。というのも、古今集は名前の通り「懐かしの名曲&人気の新曲ベストアルバム」みたいなもので、しかもかなり選んだ人の趣味や自前の歌が盛り込まれた歌集になっています。そして、この歌を載せている歌集が大体昔の名歌として選らんでいます。成立年がよくわからない『遍昭集』(この人が作ったんではなく、この人の時代の歌を後世の人が集めた歌集)に収録されていたりします。
いつ、誰が詠んだかはわかりませんが、離れても心はいつも一緒!的な話は昔から好かれていたというのがよくわかります。



大中臣氏
┗設定は、作中の通りです。一応、名前なのかあだ名だったのか、家系図にも清麻呂の子孫に「老人」と「百子」というのはいます。そもそも、世代的にどれだけ離れているのか、性別も不明。
伊勢神宮に縁のある氏で、どうにか関口と村崎を混ぜられるところはないかとググっていたら偶然見つけた存在で、これがあったからこそ、この話は成立できたものです。


凰志よう
┗与謝野晶子さんです。桃尻語訳より与謝野訳の源氏物語の方が私は好きです。不倫の末に結婚したものの、子沢山で苦労されたとか。(……この作品に登場する歌人、恋愛遍歴がスゴいな)
教育分野でも活躍し、最近流行りの昔社会的に活躍した女性の一人ですが、作中の頃は本当に店番しながら作品を書いていたそうです。
子沢山ですが、その中で外交官となった息子さんとその子(お孫さん)は言わずと知れた方々です。(お孫さんは現役なので、名前を伏せておきます)
暗に関口は、このお孫さんやその子孫と村崎の縁を継いだことを示唆しています。関口の本編中のどうやって根回しや情報収集したのかわからない活躍や沼津戦は、この縁が役立ったという設定です。
(これ、色々と不味いかな?)


※以上、解説でした。作中の世界を読み解く参考にして頂ければ幸いです。
4/4ページ
スキ