守ル者 in 沼津

5


「第四防衛線に張られた空間の結界は、球体に展開され、地中も空中もその例外ではない。だが、それ自体が完全な防壁となっているわけではない」

 明日香が結界に衝突した直後、地下にいる関口は徐に口を開いた。
 護衛に回っている綾は怪訝な表情で彼に聞く。

「それはどういうことですか?」
「空間の力は、言わずもがな時空の一部の力だ。その結界も当然、この三次元空間に依存する。空間を切り取るといったところだ。本来ならば、これに勝る完全な防壁はないが、実際は理想的な方法をとる訳にはいかない。理想というのは、完全に外界と内界の空間を遮断してしまうことだ。これならば、それこそ内外それぞれの空間に干渉して抜け道を作る時空の力が必要になる。時空ならば、時間概念も加えた三次元+一次元に及ぶから、実際にあるかないかはわからないが並行世界や異世界に干渉することだって可能だろう。しかし、実際はそういうわけにはいかない。敵との戦闘はこの外部で起こっている。汐見さんなどの転移による通信が可能にできるようにしなければならない。それ故に、先ほどの自爆テロとそれを利用した侵入経路の構築を許してしまう」
「そうなんですか………。でも、物理的に結界を破るなんてこと」
「可能だ。今、松田明日香という反転の爾落人が行っているのはまさにそれだ。恐らく彼女は最大限の力で結界に衝突した。そして、現在もその衝撃を反転させ、力を倍加させ続けている。瞬間的に、かつ一点のみの局所的にな。そうでなければ、沼津どころでない被害を衝撃で与えてしまうほどに、今頃力は増幅されている」
「いったい何を彼女はしようとしているんですか?」
「いっただろ? 結界を破ろうとしているんだ。あの結界は、そうだな……同じ空間に高密度の膜が張られたようなものだ。複雑な理屈は抜きに言えば、三次元空間の概念上で存在している限り、三次元に存在する力を無視できない」

 関口は机に置かれたパソコンのモニターに監視カメラの映像を表示させた。空にカメラが認識できずに白点となっている眩い光が存在した。

「これは光に力が変換されている証拠だ。衝撃、熱、物理的な力ではまず破れないはずの結界だが、その内外からの力に耐えられずに結界内の圧力が上がる形で縮小が起こる。もしくは結界そのものを動かす。中にいる俺たちはいずれこの結界によって押しつぶされる。……事実、これは建物の外に設置している気圧計だが、上昇している」

 モニターに気圧の数値を表示させる関口に綾は問いかける。

「耐久戦ですか?」
「いいや。そうはならないはずだ。もう時間はない。パレッタさん、桐生さん! 始めるぞ!」

 関口は立ちあがると、培養槽を見つめて声を張った。





 

 一方、第四防衛線に移動した浦園、ハイダ、翔子、菜奈美の四人は結界に衝突し続ける明日香に向かって時間と転移を活用した一斉攻撃を行うが、すべての攻撃は反転によって周囲に跳ね返される。
 そして、本部に残る世莉は汗を全身から流し、顔を歪めながら両手を第四防衛線上空に向けてかざし、集中力を切らさぬように結界を展開し続ける。

「くぅぅぅぅ………」

 いよいよ体力、集中力、精神力もなくなってきた世莉の様子を、本部に残る元紀、クーガー、一樹、桐哉は黙って見守るしかない。
 結界内への負荷が限界にくる前に、結界に絶えず与えられる衝撃に対して結界を張り続けている彼女の限界が先に迎えることは誰の目にも明らかであった。

「………ん?」

 一同が彼女を見守っている中、クーガーが気配に気づいた。
 刹那、自爆があった一号館の床から煙が巻き上がった。その煙は渦を巻き、そのまま世莉に襲い掛かる。

「!」
「貰ったぁぁぁっ!」

 煙の渦から現れた蛾雷夜が世莉に触れた瞬間、蛾雷夜の体は見えない力に拘束された。

「何っ!」

 驚く蛾雷夜。その周囲に、姿を現したのは浦園、ハイダ、翔子、菜奈美の第四防衛線にいた面々であった。

「作戦成功ね」

 元紀が言うと、菜奈美は頷く。

「ええ。完全にこいつの時間を固定したわ」
「悪いな! こっちには視解の爾落人と戦略のプロが揃っているんだ! 反転の爾落人の攻撃が囮で、お前が転移で現れて四ノ宮を襲う。そんな幼稚な作戦が通用するとでも思ったか?」

 浦園が封力手錠を片手に言った。蛾雷夜は追い詰められたにも関わらず、平然とした顔で口を開いた。

『我が身を本気で捕えられると思っているのか? ガハハハハハハッ! 笑止!』
「「「「「「「「「!」」」」」」」」」

 刹那、蛾雷夜の体は時間の拘束すらも無視して巨大化し、破壊者クローバーに似て非なる巨大な「G」の姿へと変身した。

「我がこの姿になるのは、殺ス者以来だ! だが、この組織者オルガの前に貴様らなど蚊ほどの脅威もないわ!」

 オルガの巨大な姿とその滲み出る気迫に爾落人でない元紀、桐哉、浦園も後退りをする。
 一方、菜奈美は時間の拘束を再度試みる。世莉も結界を解き、同時に侵攻する明日香を結界で閉じ込める。
 オルガは時間に拘束されて身動きを封じられ、明日香は結界の中で増幅した衝突の莫大なエネルギーもろとも押しつぶされた。

「形勢逆転よ!」

 元紀がオルガに言い放つ。
 しかし、クーガーが声を上げた。

「違います!」
「えっ?」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 刹那、第三防衛線でキャシャーン軍団を圧倒していたはずのちせの胴体が彼らの目の前に墜落してきた。続いて四肢などの残骸も燃えながら墜落してくる。

「これは?」
「……来ます!」

 元紀が驚いている猶予も与えず、クーガーの声と同時に電光石火の勢いで飛来した明日香に世莉が殴られ、その体は一号館横の二号館に吹き飛ばされた。
 咄嗟に結界を自らに張った世莉だが、そのまま二号館の柱を次々に貫き、衝撃で壁は破壊され、クレーター状に崩壊した壁面に彼女は結界のまま埋もれた。

「世莉っ!」

 桐哉が叫ぶ。しかし、その声が気絶した彼女に届いている様子はない。

「うぅ……なんなの、今のは?」

 一方、地面に転がったムツキは自分に何が起こったのか理解できずに、ちせの損傷を確認する。
 それを明日香は見下ろし、ゆっくりと足を上げた。

「えっ!」

 声を上げた瞬間、ムツキのいるちせの中枢である頭部は振り下ろされた明日香の足につぶされ、部品を周囲に飛び散らせて破壊された。

「ムツキ!」

 元紀は声を上げ、オルガと明日香を睨む。

『クククッ! 今度はこちらの番だ!』

 しかし、オルガはそれを意に介する様子もなく不敵に笑うと、刹那、自爆した。
 すかさず翔子は一同を転移させる。しかし、転移したはずの彼らは翔子の意図した場所ではなく、再び沼津支社の敷地内に戻されていた。

「私の転移を操られただと?」

 動揺を隠せない翔子にクーガーが告げる。

「奴は複製です。空間の力を既に複製しています。恐らく反転の爾落人を結界から脱出させ、更にそのエネルギーを第三防衛線から転移させたムツキさん……ちせにぶつけたのでしょう。更に、今の自爆も時間の拘束から脱出する為のブラフですね」
「視えるなら早く伝えろ!」

 声を荒げる翔子にクーガーが静かに答える。

「奴の起こす展開が早いんです。視解が追いつくのが奇跡的といえるほどに」
『なら、これでどう?』

 ハイダが彼らの頭に直接、テレパシーで意思を送る。

『私がクーガーの視解した情報を直接皆さんに送ります。これなら、わずかな時間のロスをなくすことができます!』
「ありがとう、ハイダ! ……だが、情報が多すぎる! クーガー、お前はいつもこれだけの情報の中にいるのか?」

 翔子が頭を押さえて言う。

「生まれつきですからね」
「なら……どうですか?」

 端末に手を置いた一樹が問いかける。同時に、彼女たちに流れ込む情報が整理された。

「ネットワーク内に情報を分散させて処理させたんです。わずかな時間のズレは発生しますが、フィルタリングされているはずです」
「やるじゃないか! よし! 反撃をするぞ!」

 菜奈美、翔子、浦園は圧倒的な力の差があるオルガに対峙する。
 そして、元紀と桐哉はクーガー、ハイダ、一樹と共に、明日香と対峙した。

「死にたいのか?」

 問いかける明日香に元紀は答えた。

「特別な力のないただの人間だって、それだけで諦めたりなんてしないわ。人はね。守ると決めた時だけは、どんなに困難なことでも立ち向かえるのよ。例え、それが死ぬとわかっていても。その死が無駄にならないとわかっている時は、命だって失うことをいとわない。そういう愚かな生き物なのよ! 私たちは!」
「でも、それは愚行というもの」

 明日香が元紀に襲い掛かろうとした瞬間、黄色の稲光が明日香を横から吹き飛ばした。
 すぐさま衝撃を反転させ、その金色の光へ反撃をする。
 しかし、その攻撃は天空に弾き飛ばされ、空を覆う雲が消し飛ぶ。一瞬、太陽の光が差し込み、金色の粒子が後光の如く包む彼を包み込んだ。

「この一瞬で十分だ! てめぇは俺が「我が」相手だぁぁぁぁぁぁっ!」

 キングギドラと人間の中間体の姿になった黄が明日香に殴りかかる。

「愚かな! 反転の餌食になりなさっ……がっ!」

 明日香は黄に殴られてぶっ飛ぶ。

「お前らの情報、流石だな! 押してダメなら引いてみろってことか」

 黄がクーガー達に言った。
 黄は殴ったのではなく、自分に電撃を与えて強制的にこぶしを引いたのだ。クーガー達の視解されたテレパシーで伝えられた情報は、反転を利用した攻撃だった。
 再び空は雲に覆われ、嵐が吹き荒れる。

「形勢は決して不利になってはいない。それに、人間の底力ってのを見せてやるぜ」

 そう言うと黄はキングギドラの姿へと変わり、オルガと対峙した。



 

 

 第三防衛線では、ムツキが突然姿を消した為に形勢は再び数の多いキャシャーン軍に傾き始めていた。

「ガラテア! このままじゃいくらなんでも体力が持たないぞ!」

 芙蓉の治療で復活した瀬上が応戦しながらガラテアに叫ぶ。

「だが諦める訳にはいかない! あともう少しで時間になる!」

 ガラテアがあらゆる変化の力で周囲一円のキャシャーンを倒し、答える。
 予定の時間は5分に迫っていた。
 しかし、芙蓉を入れても8人である現状では如何に歴戦を乗り越えてきた爾落人達であっても圧倒的なスピードで増え続けるキャシャーン軍団には、数において限界があった。
 すでに第三防衛線はかなり後退している。八重樫と東條は第四防衛線近くに後退し、第四防衛線への侵攻をかろうじて防いでいる状況である。
 キャシャーン軍団は、今回の時空の爾落人の誕生とその身柄を守ることが目的である戦いにおいて、戦力を引き離す為の存在に過ぎない。しかし、時空の爾落人を守ることに成功したとしてもこの軍団を殲滅しない限り、本当の意味の勝利とは言えない。圧倒的な数と力で沼津支社は壊滅し、MOGERAなどの未来の戦いに備えてきた武器は失い、爾落人も、やがては日本も蛾雷夜の勢力に敗北することになる。
 真に恐れるはこのキャシャーン軍団であるということは、すでに彼らは確信していた。
 そして、もう一つの脅威が、嵐の中で彼らに迫る巨大なメカゴジラであった。

「ガラテア! またあいつが近づいてきたぞ! ちせの猛攻を受けてもまだ動いていやがるぜ!」

 瀬上が視線の先にいるメカゴジラを見据えて叫んだ。
 メカゴジラはちせの一斉掃射によって頭部の一部と腕などの大部分が損傷しているが、まだ稼働し続けていた。

「あいつを倒す間に一体どれほどのキャシャーンを生み出させるかわからない。……だが、あの脅威を見過ごす訳にもいかない! コウ殿、また奴を磁力で倒してくれ! 私は損傷の多い頭部を破壊する!」
「わかった! やってやらぁっ!」

 二人はメカゴジラに向かって一気に走り、キャシャーン達を吹き飛ばしながらメカゴジラに迫る。

「この鉄の塊がっ! うぉりゃぁぁぁああああっ!」

 瀬上は叫び、地面に電撃を放つ。メカゴジラは周囲のキャシャーンを巻き込んで、大地に倒れた。
 その直後、ガラテアはメカゴジラ頭部に両手を当て、熱を自身の限界まで高める。メカゴジラの頭部は赤く熱され、変形が始まる。熱によって内部の精密機器も損傷する。

「これで終わりだ!」

 刹那、メカゴジラの頭部は内部から爆発し、消滅した。
 頭部を失ったメカゴジラは活動を停止した。

「よし! 残るはこの周囲一面にいる数万人の軍団か」
「一瞬で増えたな。……一掃攻撃も何度と繰り返すと疲れるな」

 二人はメカゴジラの上から無数にいるキャシャーン軍団に攻撃を放つ。
 次第にその範囲を拡大させた軍団は第四防衛線まで突破しようとする数が増えてきていた。

「畜生! せめて数がいれば!」

 瀬上が自棄になり始めていたその時、後方の軍団で爆発が起こった。

「! 誰だ?」

 振り返った瞬間に、瀬上は思わず口元に笑みが浮かんだ。
 そこに広がる光景は、戦闘ヘリと戦車隊をはじめとした自衛隊であった。
 更に、瀬上の体を電波が通り過ぎて行った。

「海から無数のレーダー? ……まさか!」

 彼が海を見ると、荒れる海面から次々とミサイルと砲撃が放たれる。

「海上自衛隊まで!」

 キャシャーン軍団は自衛隊の攻撃に反撃をしながら空へと飛びあがって逃走を図る。
 しかし、上空に上がった軍団はミサイルによって迎撃される。
 そして、空気を切り裂く音とともに台風の中を戦闘機が飛び去っていく。

「陸海空の自衛隊が応援に来ただと? 旧裾野市にいた陸自だけならまだしも……」

 驚く瀬上とガラテアの近くに戦車が侵攻し、スピーカーから呼びかけてきた。

『友軍に告ぐ! 国防の為、防衛相及び陸海空全幕は、警戒区域内で敵と戦うあなた方の援護に協力することを決定しました!』
「ははは、マジかよ。本当に戦争状態になったのかよ」
「コウ殿。風向きが変わった。一気に殲滅するぞ!」
「おぅ!」

 それから数分間で、爾落人の圧倒的な戦闘力と自衛隊の一斉攻撃によって、キャシャーン軍団は包囲され、一気にその数を減少させていった。





 

 沼津支社敷地内で対峙したキングギドラとオルガは同時に動いた。
 キングギドラは三つの首から引力光線を放ち、オルガを牽制すると翼を羽ばたかせドロップキックする。
 オルガも肩の砲口から光線を放ち、引力光線を防ぎ、腕を振り、ドロップキックを弾き返した。
 二体は距離を取り、グラウンドと茶畑に立った。

『異世界の神が我の邪魔をするな!』
『神などではない! 我も、そしてお前も!』

 キングギドラは茶畑から空に飛び上がり、全身を金色のエネルギーで球体に包み込んだ。
 オルガは光線を連写する。

「蛾雷夜は黄に任せて、私達はお前の相手だ」

 翔子は封力手錠を明日香の手首に転移させた。

「!」
「勿論、その厄介な能力なしでな」

 菜奈美達も明日香を取り囲む。
 しかし明日香は動じることなくその両手を地面に叩きつけた。

「なっ!」

 驚く翔子の前で手錠諸共両手の骨を砕いた明日香は不気味な笑みを浮かべた。
 刹那、翔子達の体は反重力によってアスファルトと共に上空へ吹き飛ばされた。
 咄嗟に菜奈美は時間を止め、翔子が一同を一号館へ転移させた。
 全身を激痛が襲い、出血する。一瞬でも風雨に超高速で接触した為だ。
 菜奈美が瀕死の元紀達人間の時間を戻している間に、明日香は先の反転を利用した高速移動で旧体育館の壁を破壊し、格納庫へと侵入した。
 MOGERAの前に着地すると、更に床を破壊し、最深部の実験室に侵入を果たした。

「遂に来たか。……だが、僅かに遅かったな。タイムリミットだ」

 培養槽の前に立つ関口が明日香に背を向けたまま言った。
 培養槽内の培養液は徐々に排水され、減っていく。
 それを確認すると、明日香は表情も声も出さずに関口と培養槽に襲いかかる。

「させない!」

 綾が横から飛び出し、念撃で明日香を攻撃する。
 しかし、明日香はそれを反転させ、綾を弾き返した。衝撃で全身の骨が鈍い音を立てる。

「っ! ……ま…だ!」

 激痛に顔を歪めながら、綾は再び明日香に攻撃する。

「愚かな女」
「それでも、何もせずにいるのは嫌よっ!」

 明日香の前で全身の骨が砕けながらも、綾は叫んだ。

「せめて……道連れに!」
「無理」

 綾は再びその身を壁に吹き飛ばされた。

「二階堂さん、もう十分だ。……彼女は、生まれた!」

 関口の言葉と共に室内に響いた産声を朦朧とする意識の中で聞いた彩は、安堵した表情を浮かべ、ゆっくりと瞳を閉じ、そのまま静かに息を引き取った。

「まだ終わりではない!」

 一方、明日香は関口に襲いかかる。
 ニヤリと笑う関口。逃げるのではなく、明日香に飛びかかる。白衣を脱ぎ捨てると、関口の体に身につけられた金属製の拘束具が露わになり、明日香に抱きつく。拘束具が展開され、明日香を拘束した。そして、関口の体には爆弾が身につけられていた。

「封力手錠の捕獲、拘束具版だ! 道連れにしてやる!」
「巫師風情が!」
「何とで言えぇぇぇっ!」

 赤子の時空の爾落人を抱くパレッタと桐生の見つめる中、関口は叫んだ。
 刹那、関口は明日香を道連れに自爆した。

「!」

 爆発と同時に関口は光に包まれた。
 黒煙の中、パレッタ達の眼前には明日香が現れた。

「そんな……」

 思わずパレッタは素の声を上げていた。
 しかし、その直後、彼女の前には関口と見慣れぬ女性が明日香との間に立っていた。

「反転。蛾雷夜も面白いものを作るわね。……でも、私を殺すにはぬるい能力といわざる得ないわ」
「邪魔をするな!」

 明日香は女性に襲いかかる。
 しかし、明日香は彼女に指一本も触れることなく、床に叩きつけられる。

「ぐっ!」
「やっぱりぬるいわね。跪いて私の足でも舐めるのがお似合いよ」

 女性は優越感に浸った恍惚とした表情で足を明日香の前に差し出す。

「貴様! こんな屈辱! 何者だ!」
「私? 私はレイア。あなたが殺そうとしていた時空の爾落人ですよ」
「なに?」
「いい表情ね。……でも、もっといい表情をさせてあげますね」

 刹那、レイアの目の前で明日香の体は宙に浮き、時空の穴に閉じ込められ、消滅した。

「虚無の世界に消えなさい。永久に……家畜の如く」

 レイアは高らかに笑った。
 そして、背後に立つ関口を見た。

「関口さん、お久しぶりですと言えばよろしいですか?」
「ついさっきまで一緒にいたかのような口振りだな?」
「えぇ、まぁ」
「……誕生おめでとう! 悪いが今はこれくらいしか思い浮かばない。……この子、お前自身に託して良いんだな?」
「はい。過去へ連れて行きます」

 レイアは頷き、パレッタから赤子の自分を受け取る。

「レイアだったな? 一つ聴いていいか? 4010年で合ってるか?」
「! ……それは関口さん、ご自身で確認してください」
「わかった。……じゃあ、ここから離れた場所へ転移させてくれ。お前の生み方を知っている俺がここで生き延びている事実をつくるのは何かと面倒だ」
「わかりました。アメリカ大陸の砂漠にでも飛ばしますね」
「わかってるじゃねぇか。……パレッタさん、桐生さん。俺は先の爆発で死んだ。そういうことで頼む。後の根回しは全部終わってる」

 パレッタと桐生は関口に頷いた。
 関口は頷き返し、レイアと赤子と共に消えた。
 この瞬間、関口達の敗北はなくなった。
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