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3


「今日はミトとウィルの結婚式だった」

 王宮へ向かおうと廃工場から脱出する途中、徐にショーグンは銀河に言った。

「ウィルって、あのレジスタンスのか?」
「そうだ。彼とミトは一年前、恋仲であり、婚約者だった。しかし、反乱によって父を殺されたミトは旧政府勢力に加わり、紛争を早く終わらせ、民の平和な暮らしを取り戻したかったウィルはレジスタンスのリーダーとなった」
「それぞれ対立する立場を選んだのか?」
「あぁ、まさに物語で語られる如き悲劇だ。だが、この争いを終える可能性もある悲劇だ」
「どういうことだ?」
「そもそも何故行方を隠していたミトがレジスタンスの拠点の一つとなっていた集落に現れた? 何故ウィルが昨日物資を隣国から運んできた?」
「まさか……」
「そのまさかだ。ミトは予定通り本日ウィルと結婚するはずだった。結婚で敵対関係にある二つの勢力を結びつけられるはずだった。……もう式を上げる予定の時間だがな」
「まだ間に合う。今日中に式を上げればいい」

 銀河は自信を持った口調で言い、廃工場から外に出る扉を開いた。

「うわっ!」

 扉を開くと、彼らの眼前には国連の装甲車が廃工場を包囲し、隊員達が銃口を向けている光景が広がっていた。
 思わず一歩後退りする銀河だが、ショーグンは気にも留めずに外へと出て行く。

「お、おい!」

 慌ててとめようとする銀河だったが、それよりも先にショーグンが口を開いた。

「余は王宮軍のショーグンと呼ばれている。此処に来た目的は其の方達と同じ! ミトは既に此処から王宮へ連れられた後であった! 武器を下げよ!」

 ショーグンは旧政府勢力と言わずに、そのかつての呼称を用いて伝えた。
 その語気は、心理とはまた異なった力のこもったものであった。
 隊員達は思わず言葉通りに銃口を下げる。

「それでよい」
「あなたは一体……」
「主も余の気配で気づいておろう? 主と同じ爾落人じゃ」

 ショーグンが銀河を一瞥して言った。
 そんな彼らの前に、装甲車から降りたライムが歩いてきた。二人もその服装から彼女がこの場の指揮をとっている士官であると気づいた。

「アメリカ陸軍所属のライム・ギムレットだ。ショーグン様、お初にお目にかかります。……お前が拉致された日本人旅行者だな?」
「はい。後藤銀河と申します」
「ふむ。貴殿とミトの関係は?」
「偶然現場に居合わせただけだ」

 ライムに銀河は言い切った。
 彼女はそれによって、銀河からショーグンに視線を戻す。

「中の状況は?」
「見慣れぬ新政府軍の制服を着た兵士が20人程倒れている。峰打ち故、早く助ければ証言も得られるはずだ。恐らくはGROWの者だろう」
「貴様が全員を一人で倒したのか?」
「余の噂は主も知っておろう? 容易い事だ」

 ショーグンの言葉に納得した様子で頷くと、ライムは隊員達に指示を出す。
 隊員達が廃工場へ向かい、銀河達はライムと共に離れる。
 その時、突然ショーグンが何かに気づき、叫んだ。

「はっ! マズい! 建物から離れろ!」
「みんな、建物から離れろっ!」
「「「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」」」

 すぐさま銀河が叫び、隊員達は建物から慌てて離れる。
 刹那、上空から何かが高速で建物にぶつかり、次の瞬間、廃工場は爆発した。
 爆熱風と建物の破片、そして隊員達が、咄嗟に地面に伏せた銀河とライムに降りかかった。

「空爆か? ……ショーグン!」

 耳鳴りが止まない内に体を起こし、銀河は振り返った。
 彼らの後ろには手をかざし、まるで爆風と破片から二人を守る様に、ショーグンが立っていた。

「案ずるな。これが余の力だ。……それよりも、敵だ!」

 ショーグンは銀河に言った。
 耳鳴りと煙ではっきりとした状況が銀河にはまだ把握できていないが、複数のプロペラ音が聞こえる。
 刹那、煙の先から銃弾の雨が彼らを襲う。
 直後、爆発音が聞こえ、視線を装甲車に向けると、装甲車が次々に破壊されている。

「都合の悪い証人、証拠をまず抹消し、敵の退路を断つ。そして、包囲した敵を圧倒的な戦力で潰す。定石だな」

 ライムが苦虫を噛んだ表情で言った。
 先の空爆と今の攻撃で隊員達の大半が倒されていた。
 状況は最悪であった。

「まだ、諦めるな! 俺達はまだ、生きている!」
「! ……あなたは、一体」
「後藤銀河、心理の爾落人だ」

 銀河はライムに笑ってみせた。

「主の言う通りだ。どうやら、運はこちらに向いているようだ」

 ショーグンも不敵な笑みを浮かべた。
 次の瞬間、爆発音と共に、武装ヘリが墜落した。
 そして、レジスタンス達が一気に姿を現し、武装ヘリと戦闘を始めた。

「ウィル!」

 レジスタンスの中からウィルを見つけたショーグンが彼を呼んだ。
 ウィルも彼らに気づき、駆け寄る。

「大丈夫か? ……ミトは?」
「王宮じゃ!」
「よし! 車に乗れ!」

 新政府軍とレジスタンスが戦闘を繰り広げる中、ウィルは彼らを連れて、車に乗り込み、王宮へ向かった。





 

「僕のそばにいてくれますか」

 ウィルがミトにこの言葉を伝えたのは、1年前のクーデターが起こる凡そ1ヶ月前の、いつものカフェでのことだった。
 店内のテレビのニュースは、いつものように一つの命をめぐる悲劇を語る。それに対して店内の大人がどこかの神や宗教の話をしていた。
 そんな中、ウィルはミトに結婚を申し込んだ。

「……いつものカフェだ」

 王宮へ向かう車中、ウィルは戦車によって壊されたカフェを見て、彼女へプロポーズをした時のことを思い出しつつ、呟いた。
 思い出の景色は変わり果て、もうそこにない。
 そんな彼を見つめて、銀河は口を開いた。

「ミトの力は一体何なんだ? 何故彼女が争いの中に?」

 その問いにウィルは静かに答えた。

「遠い昔の伝説だ。……シタール弾きのカルナという話を知ってるか?」
「昔、一度だけ聞いたことがあるな?」
「あの物語にアグネアという今でいう核兵器とそれを生み出したアグニ国、そしてそれを受けたスーリア国というのが登場する。それらは今のインドだとその伝説では語られ、そこにいたというシタール弾きのカルナについての伝説だ。……しかし、この地方にはそのカルナと別の伝説が残っているんだ」
「別の?」
「魔女のアポトーシスという伝説だ。現代でいうアポトーシスは細胞死の現象を意味する言葉だが、偶然か、語源が同じなのかはわからないけど、その魔女の大魔法の名はアポトーシスだ」

 そして、ウィルは魔女のアポトーシス伝説について話始めた。
 アグニ国は文明の発展により、アグネアを生み出し、それをスーリア国に使った。
 しかし、アグニ国はアグネアよりも優れたものを生み出そうとしていた。アグネアは大地を殺してしまった。そして、カルナと黒き魔獣を生み出した。彼らはその魔力に目を付けた。
 アグニ国は魔力を人に与え、コントロールしようとしたのだ。そして、科学者の中から一人の魔女を生み出した。魔女はアグネアを魔法で生み出してみせた。そのアグネアは、カルナも魔獣も滅した。
 しかし、科学者達はアグネアを超える力を魔女に生み出させようと求めた。魔女はそれを拒み、夫と共に国から逃げ出した。
 追っ手を逃れた二人はこの地に住み、子どもをもうけた。そのまま平和な生活が続くかと思われたが、遂に追っ手が彼女を見つけてしまった。
 夫と子どもの命を守る為に、彼女は魔法で作り出した力で戦いながらこの地から離れるが、遂に追い詰められた。無数の兵器と部隊が彼女を取り囲む。その中にはアグネアもあった。
 その時、彼女は夫と子どもを守る為、世界を滅ぼしかねない大魔法アポトーシスを使った。彼女は既にアグネアを超える力を見つけていたのだ。しかし、そのあまりにも強大過ぎる力は世界を滅ぼしかねない程であり、アグネアと違い作り出した瞬間に破滅の力を放ちながら消滅してしまうものであった。その為、彼女はアポトーシスのことを隠し、国から逃げ出したのであった。
 彼女はアポトーシスを使い、一瞬にして周囲に存在する一切の存在が消滅した。彼女は追っ手と自らの命を消滅させて守ったのは、愛する家族の命だけでなかった。彼女の力は子どもにも受け継がれ、子どももアポトーシスを生み出すことができたのだ。彼女はその力を子どもに使うことを禁じ、その秘密を隠す為に、アポトーシスを使ったのだ。
 その後、夫と子どもは追っ手に狙われることもなく、平和に暮らした。そして、彼女の力は子どもからその子どもへ代々受け継がれた。

「ミトは魔女の末裔だ。恐らく、その変成の力は「G」だったんだ。彼女もアポトーシスを生み出せる。奴らはそれを狙っているんだ」
「アポトーシス、一体何なんだ?」

 銀河が考えると、ライムが口を開いた。

「その伝説が事実なら、思い当たる存在はある。だが、もしそうであったら、GROWは核兵器以上の力を手にすることになる。それだけは阻止しなければならない」
「あぁ。……王宮に着くぞ!」

 ウィルは頷いた。その視線の先には王宮があった。

「車を止めろ!」

 その時、ショーグンが叫んだ。車は急停車する。

「どうした?」
「王宮に侵入するのに、わざわざ玄関から入る必要もなかろう? 良い道を知っている。付いて来い」

 そういい、ショーグンは車から降りた。
 そして、銀河達も車から降り、その後を追うのであった。





 

「オダカーン様、準備ができました」

 アーサーがオダカーンとザルロフに伝えた。
 二人は王室から別の応接室に移り、ソファーに座り、酒の入ったグラスを片手に転がす。

「カーテンを開けよ」

 オダカーンの指示にアーサーは頷く。彼らの座る向かいの壁一面にかけられたカーテンを、その両脇に立った制服を着た兵士二人が開いた。
 カーテンが開け放たれた先には壁ではなく、巨大なガラスがはめ込まれ、その先には広いコンクリートの壁に囲まれた部屋があった。
 部屋の中心にはステンレスのテーブル。その上に置かれた長さ50センチ、直径15センチ程の筒状のカプセルは、透明な筒に両端を金属の半球が蓋をした形をしており、筒の中心には球体の物体が浮遊している。
 そして、テーブルの後ろに立つのは、ミトと彼女に銃を突きつけた二人の兵士であった。

「ザルロフ、あのカプセルがアポトーシスをコントロールする装置か?」

 オダカーンに聞かれたザルロフは頷く。

「そうだ。あのカプセルの両端には磁石が内蔵され、中心にある球体は磁力で固定されている。当然、あの中は真空だ。あの球体をミトにアポトーシス、いや反物質に変成させる。反物質はこれで物質と接触して対消滅を起こすことはない」
「ふふふ、これでザルロフは核兵器を超える力を手に入れる」
「そして、あなた様はミトの力をつかい、文字通りの錬金術で石から金を作り、富を得る。そして、我が組織の兵器に投資し、権力を得る。それらを得て、我々は野望を実現する」

 ザルロフが悪い笑みを浮かべて言った。
 そんな彼にオダカーンはニヤリと笑い、酒を仰ぐ。

「ザルロフ、お主も悪よのう」
「いえいえ、オダカーン様ほどでは」

 そして二人は高らかに笑った。
 オダカーンが手を上げ、アーサーが無線に向かって指示を出す。

「よし、始めろ!」

 オダカーン達は思わず身を乗り出す。
 ミトは恐る恐る手を装置の中の球体にかざした。
 刹那、球体は金に変成された。

「むっ! どういうことだ?」
「おい! 金ではないぞ! アポトーシスだ! 反物質を作れ!」

 オダカーン、ザルロフが立ち上がり、叫んだ。
 対して、アーサーは静かに呟いた。

「侵入者だ」

 次の瞬間、王宮内に警報が鳴り響き、兵士達が二つの部屋に流れ込んできた。

「「「「!」」」」

 同時にそれぞれの部屋にいた兵士達4人は身を翻した。
 ミトと共にいた2人の兵士はカラシニコフと消火器を構え、カーテンの傍に立っていた2人の兵士は拳銃と日本刀を構えた。

「貴様! 一体何者だっ!」

 オダカーンが叫んだ。
 それに、日本刀を持つ兵士がニヤリと笑い、帽子を外した。

「余の顔を見忘れたか?」
「ま、まさか! シン国王!」

 その顔を見て、オダカーンは青ざめて叫んだ。その顔を見た他の兵達も動揺を隠せない。
 その顔は紛れもなくショーグンの顔であったが、彼らはその日本人離れした色黒の肌と高い身長は紛れもなく死んだシン国王であった。
 それに驚くのは彼らだけでなく、ライムも同様であった。

「何故だ? ずっと顔を見ていたのに全く気がつかなかった……」
「それが余の力、氣導のなせる技だ。ある時は旧政府勢力のショーグン、またある時はアメリカ軍の兵、またある時は酒場で飯を食べるジャーナリスト。しかし、その実態は氣導の爾落人にして一国の王! この程度、簡単な変装と気配を自在に変えれば容易いことだ」
「アメリカ軍?」

 それを聞いてライムに思い当たる人物がいた。時折、いつの間にか、そこにいた大柄な隊員。
 銀河も酒場にいた人物の一人に同じ男がいたことに気がついた。

「オダカーン、主の悪事はすべて余の知るところ! 主の反乱は始めから失敗していたのだ!」
「ええい! もはやこの国は我ら新政府のものだ! シンが生きていようと貴様のものではない!」
「ならば、余もシン国王の名を捨てよう。今一度、一人の爾落人、徳川吉宗に戻り、主を成敗してくれよう!」

 彼は制服を剥ぎ取ると、白い和装が現れ、その衣には葵の紋が刺繍されていた。

「と、徳川吉宗? ……ショーグンって、元征夷大将軍という意味なのか? 本当に暴れん坊将軍じゃねぇか!」

 時代劇好きの銀河が目を丸くして驚く。
 一方、日本人ではない他の者達は突然白い和装になった徳川吉宗に呆然としていた。
 オダカーンにいたっては怒り心頭に発していた。

「えぇい! こんなくだらない茶番に付き合うつもりなどない! この者達を殺せ!」

 彼の言葉に、江戸時代ではない21世紀の兵士達は一斉に銃を構えた。
 しかし、その弾丸が彼らを襲うことはなかった。

「やめろぉぉぉっ! てめぇらに俺達は撃てねぇぇぇっ!」

 銀河が叫んだからだ。
 兵士達は引き金が引けずに固まる。
 彼は更に叫び続けた。

「てめぇら、大人が罪を繰り返すから、命はいつも争いの中なんだっ! 敵と味方の過ちのせいで、愛や温もりを見つけられずに悲しみが繰り返されるんだっ! たった一つの命をこんなことのために失うなっ! 戦いを止めろぉぉぉっ! 武器を捨てろぉぉぉっ!」
「「「「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」」」」

 次の瞬間、兵士達は一斉に武器を捨てた。
 そして、銀河はオダカーンを睨んだ。

「き、貴様は何者だ!」
「俺か? そうだな、遠山三十郎とでも言っておこう。……まだまだ二十郎だけどな?」
「サンジューローだと!」

 オダカーンは愕然として、後退りする。
 更に、一発の銃声が部屋に響いた。隣に立つザルロフが目の前に崩れた。

「ザルロフ!」
「うっ……」

 ザルロフの視線は煙を吐く銃口、そしてその先にあるライムの顔を睨んでいた。

「スタルカ・ザルロフ。夫を殺した仇だ!」
「貴様ぁぁぁっ!」

 忌々しげに睨むザルロフの頭部にライムは狙いを定める。

「させるか!」
「ぐはっ!」

 刹那、ライムはガラスをぶち抜いて、銀河達の前に転がった。
 ライムを投げたのは、アーサーであった。駆け寄った銀河は彼を見た。

「どういうことだ、俺の心理が効かないだと?」
「効いてはいる。心理の爾落人。だが、俺は武器を使っていない」

 そして、アーサーは静かに布を脱ぎ捨て、素顔をさらした。
 その素顔は毛深く、まるで猿の様な顔であった。

「俺は伸縮の爾落人。最初で最後の本当の爾落人だ。貴様達、偽物達とは違う、本物の人間だ」
「本物の人間?」
「後から現れた貴様達に仲間は安住の地を追われ、遂には俺一人となった。貴様達は所詮我らを模した人形に過ぎん。真なる人間は我々だ」
「……まさか、ネアンデルタール人?」
「その様な名は貴様達が付けたものだ。俺は真なる人間。真なる爾落人だ」

 そして、アーサーは瞬時に移動し、銀河の頭部を掴み、床に叩きつけた。

「がはっ!」
「悠久の時を俺は生き、貴様達の世界を見てきた。しかし、貴様達の歴史は争いの繰り返しだ。故に……」

 アーサーはカプセル状の装置を手に取り、ミトを見た。
 咄嗟にウィルが間に入る。
 刹那、ウィルは壁に吹き飛ばされた。瞬時に長く伸びたアーサーの足によって。
 そして、左手を巨大化させ、装置を片手に持つと、右腕を伸ばし、ミトの首をつかんだ。

「うぐっ………」
「俺が貴様達の世界に終わりをつげさせてくれる! 貴様達の好きな争いによって、このアポトーシスによって!」

 不敵に笑うアーサーの話にオダカーンは憤る。

「アーサー! 貴様、裏切るつもりか!」
「裏切る? 違うな。俺は最初から貴様達の仲間であったつもりはない」
「奴を殺せ! あのエテ公を殺すのだ! せっかく山奥から殺されかけてたイエティを救ってやったのに、その恩を仇で返すとは……。そもそも貴様はわかってない! 争いの何が悪い? 国民をそこの王から解放してやったのは誰だ? この儂だ! その対価に富を得てなにが悪い? 愚民共が生活に不満を持つから兵器を手に入れ、国を強くしようとして何がいけない? 愚民共の平和が脅かされているから反政府の連中を殺して何がいけない? そこに富を得るチャンスがあるのだ、戦争で金儲けを考えて何がいけない? 戦争の何がいけない?」
「……とことん腐った男だ。世界の前に貴様を殺す必要があるらしい」

 アーサーがオダカーンに蹴りを放つ。が、その伸びた足は吉宗の体によって阻まれた。

「気功。余と主の気を読み、導けばその程度、痛くも痒くもない」
「貴様、自らを殺そうとした男の肩を持つのか?」
「いや、主の手を汚させるにはあまりにもこの者は下劣だ。オダカーン、先ほどの主の言葉、愚民と見下していることもさることながら、すべてが民ではなく、主が望むことだ。富と力に目がくらみ、余の命を狙い、そして国を、民を苦しめた罪、許されざることだ。アーサーよ、主が我ら人間を恨むのは構わぬ。だが、その復讐に、この者の命はあまりに汚れている。この命はかつての主君である余の手で奪うが、責任じゃ」

 そして、吉宗はゆっくりと後ろを向き、オダカーンを見た。
 オダカーンは血相をかき、銃口を吉宗に向ける。
 しかし、彼が引き金を引くよりも早く、吉宗はその手に持つ刀をふるった。

「成敗!」
「っ!」

 オダカーンは鮮血を流し、静かに倒れた。

「これで、義を果たした。アーサー、主もこれで此度のことは終いにしてくれぬか?」
「……できない相談だな。その男は歴史に何度と争いを起こした者達のたった一人にしか過ぎない。全ての人間を滅ぼし、最後の一人として我が命を消し、人類を絶滅させる。それが我が復讐だ!」

 アーサーは言い終えると同時にその身を巨大化させる。
 ミトと装置をそれぞれの手に掴んだアーサーは巨大化し、服がひきちぎれ、やがて天井を壊し、遂には宮殿よりも大きくなった。

「これが伸縮の力だ! まずはここにいる争いしか知らない人間共を踏み潰す!」

 言葉の通り、アーサーは足を兵士達に向ける。

「うぐっ!」

 しかし、その足に突如、激痛が走り、この身を宮殿の壁に倒し、そのまま壁を崩して王宮内の庭園に倒した。
 兵士達の中にいた銀河がありったけの護符を投げていたのだ。

「今のうちだ! 逃げるぞ!」

 銀河は叫び、兵士達は一斉に逃げ出した。
 その中、ライムと吉宗、ウィルが彼の元に駆けつけた。

「今のでザルロフを逃がした!」
「GROWの兵士達もだ」
「それよりもミトだ!」

 彼らが口々に銀河へ言った。
 ザルロフ達、GROWを捕り逃す訳にはいかないが、ミトも助けない訳にいかない。
 銀河は吉宗に静かな口調で聞いた。

「紛争を終わらせよう。国内全てに繋がる放送は可能か?」
「あぁ、ついて来い!」

 吉宗が頷くのを確認すると、ライムに向いた。

「ザルロフをこの国から逃がさない。俺は紛争を終わらせる。奴を捕まえてくれるか?」
「任せろ」

 そして、最後に彼はウィルを見た。

「この国も、ミトも、世界も、俺は守る! 俺を信じて協力してくれ!」
「わかった。だが、どうするんだ?」

 ウィルが聞くと、銀河はニヤリと笑った。

「アーサーの考えを変えるのさ」

 そして、彼らは王宮内の放送室へ向かった。
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