ANECDOTES




 町おこし。それは過疎化が急速に進む地方地域が観光産業によって人を呼び込む起死回生の秘策である。
 ことに21世紀以降、日本の各地にゆるキャラなるものが出現し、それによって地域活性化が実現した話は記憶に新しい。
 しかし、その成功例の影で失敗に終わった町おこしが無数に存在することも、また事実である。
 これはある村地域に住まう漢達の熱く儚い挑戦の物語である。


プロジェクト~挑戦者たち~
村おこしに挑んだ漢たち




 2010年、南極で「G」が発見された。以降、世界中で幾多の「G」が発見、出現した。しかし、「G」はその以前から存在していた。
 三重県蒲生村。そこにかつて「G」が現れた。
 2005年夏、村に鬼神クマソガミが現れ、村人達は恐怖し、一人の尊い命が失われた。しかし、村の少年の勇気によって鬼神は消え、村人達も恐怖に打ち勝った。
 時は巡り、2010年。「G」発見で時代は変わり、クマソガミが「G」であったことも認知された。
 2010年9月の夜、蒲生村の集会所に男達が集まった。彼らは村長と青年団員達だった。
 村長は彼らに言った。

「クマソガミで村おこしをしよう!」

 一同はざわめいた。死者も出ていた。青年団団長の五井號は真っ先に反対した。
 しかし、村長は必死に彼らを説得した。

「我々はクマソガミの恐怖に打ち勝った。今度は我々が攻める番だ!」

 この言葉が決め手となった。
 クマソガミの観光産業化に乗り出した五井達は各地の地域活性策を研究した。時には村長や五井自らも各地へ足を運んだ。

「村おこしは萌とゆるキャラだ!」

 それが男達の出した結論だった。団員の蒲生は娘の下宿先に泊まり込み、娘の文句を背に受けつつも秋葉原へ通い、萌えについてを学んだ。
 村長は役場の職員達を駆り出し、クマソガミの封じられていた洞窟の観光ルート作りを進めた。狭い洞窟は電灯を設置するのがやっとであった。
 蒲生が戻り、彼らは萌えを含んだクマソガミのゆるキャラ作成に乗り出した。
 しかし、なかなかデザインがまとまらなかった。萌えと鬼らしさの釣り合いがとれなかったのだ。
 机に広げられた資料を見ていた五井は気がついた。

「八重歯だ! キシンちゃんにも八重歯を加えよう!」

 鬼らしさが出た(気がした)。
 更に、蒲生も提案した。

「神らしさと萌えならば、衣装は巫女服がいい!」

 村長も意見を出した。

「体色の黒い印象は髪と性格で表現してみよう!」

 それまでの黒い衣装から紅白の巫女服に変更し、色白の肌に黒髪で角を表現し、背中から生える羽のような棘で腹黒い印象にしてみた。
 デザインを見た男達はどよめいた。
 萌えだった。

「これなら、いける!」

 村長は確信した。蒲生は娘にポスター用のコスプレ写真を頼むと言った。
 しかし、彼らには思わぬ落とし穴があった。
 村の若者達の猛反対であった。五井の息子も蒲生の娘も反対した。
 しかし、彼らは諦めなかった。コスプレではなく、生粋の二次元キャラクターでキシンちゃんは蒲生村のゆるキャラとして誕生した。
 こうして、漢達の挑戦は終わった。



 後日談:2037年後藤宅にて

「……なぁ、元紀。前に来たときも思ったんだけど、村の看板とかに描かれてるあのキャラクターはなんだ?」
「蒲生村の黒歴史よ」

 キシンちゃんは一部の熱狂的ファンを獲得したものの、当時日本各地で「G」関連の村おこしが乱立したことに加え、洞窟以外に観光として売り出せるものがなかった為、月日と共に忘れられていった。
 また、蒲生家のアルバムに成人祝いの勢いに流されて撮影してしまった元紀のキシンちゃんコスプレ写真が残っていることは、彼女の黒歴史である。



【終】
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