ANECDOTES


∞約束∞



「ねぇ、元紀の事好き?」

 それは小学校入学にも満たない頃、祖父に連れられてきた蒲生家の庭でお月見をしていた時のことだった。
 大人達は月を眺めながら酒を交わして盛り上がっていた。そして、銀河と元紀は庭の石の上に座り、二人で団子を食べながら、夜空にさんさんと輝く満月を眺めていた。
 どういう話から元紀がそれを聞いてきたかはわからない。会話があって、それに流れがあったのかも定かではない。
 しかし、無邪気な顔で元紀は問いかけた。

「うん」

 そして、幼い銀河も無邪気な顔で頷いた。
 元紀はまた目を輝かせて言葉を続けた。

「じゃあ、いつか元紀を月に連れて行って」
「月に? 元紀はかぐや姫なの? それとも、うさぎさん?」
「ううん。違うわ。おじいちゃんが前に話してくれたのよ。素敵な音楽があるの。私を月に連れて行って、そういう詩を曲に乗せて伝えるの。星々の間で歌わせてって。で、手をつないでほしい。チューしてほしい。ってね。……つまり、本当にしてほしいってことなの。そして、最後に伝えるのよ。愛していますって!」

 当時の元紀がFly me to the moonの歌詞をどれほど理解できていたのかはわからない。それは銀河も同様だった。
 しかし、彼は瞳に月と元紀を映して笑顔で答えた。

「うん。じゃあ、いつか元紀を月に連れて行くね?」
「約束よ」
「うん、約束」

 そして、二人は月明かりの下で、指きりをした。




【はじまり】
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