決着の日~2028~
依然として待機状態のワーカー以下、傭兵集団は飛行場内にてその時を待っていた。各々が娯楽施設で過ごしたり正規のトレーニング施設で使う中、一人だけ士官待遇のワーカーはと言うと宿舎に籠り、鏡の前で自分を眺めていた。身だしなみに気をつけるのは商談の時くらいだが、今は自分の顔を中心に全体のシルエットを頭に叩き込んでいる。
「決まってるな」
デザート迷彩の戦闘服に、背中を含む上半身を覆うボディアーマー。さらにその上から着込むチェストリグには予備マガジンとナイフを仕込んでいる。右のヒップホルスターにはリボルバー拳銃を、左のレッグホルスターには自動拳銃を、背中には銃身を切り詰めた極短射程の散弾銃をマウントしており、さらにメインアームのカービン銃を構える。装備重量はかなりのものであるがそれを無理なく実現させる筋力がワーカーにはあった。
「来い!」
ワーカーは意識を集中すると今の自分の姿をそのまま目の前に投影してみせた。普段の投影なら難なくこなせる事だが、今からやろうとしている事はいつもと違う。事実投影は触れられそうなほど鮮明に立っていた。ワーカーは投影の出来に満足すると手を伸ばす。
「!」
その時、特徴的なノックが聞こえてきた。仲間に仕込んでいる符丁だった事から飛行場の士官ではない。ワーカーはすぐに投影を消すと入れと促す。
「…お邪魔でしたか?」
訪ねてきたのはサモアだった。既に見慣れているワーカーの戦闘スタイルだが少し慄いた。ゲーム感覚としか思えない相変わらずの重武装には悪寒が走る。ここまで武器をてんこ盛りに所持するのは白兵戦経験者として現実味を感じられない。フィクション。映画の中の存在のようだ。
「そうだったら追い返すだろ。要件はなんだ?」
「その前に鏡を見つめていた理由を聞いても?」
「実は俺もハリウッドデビューを控えていてな」
「もういいです」
「なんてな」
いつもの調子ではぐらかしたワーカー。サモアは特に不審に思う事なく本題を切り出した。
「皆、缶詰め状態が続いて疼いてますよ」
「顔の割れてる連中ばかりなんだ。仕方ねぇだろ」
「行き先くらい教えてくれてもいいのでは?」
サモアがあたかも仲間の総意であるかのように語る。ワーカーはサモアへ見向きもせず、自動拳銃の銃身下のオプション用レールにLEDライトを取り付けていた。
「直前でブリーフィングする。そう焦るな」
「準リーダー格の私にくらい先に教えてもいいでしょう」
「そうかもしれねぇ。だが今回の大口の仕事、確実にやり遂げなきゃならねぇ以上漏洩は防ぎたい」
「…それは私が信用できないと?」
「そうだな」
「それは…私がただの人間だからですか」
「そうだ。お前よりジェフやスタイルズのがまだ信用できる」
よほど爾落人や能力者が偉いと思っているのか、自分へは見向きもせず応対するワーカーに不満が募っていた。ただの人間を見下しているであろうその表情が、サモアは内心許せなかった。
「私は皆の…!」
サモアの主張は無理矢理抑えられた。ワーカーは調整済みである散弾銃の照準器でサモアを覗いたからだ。当然安全装置をかけられているが銃口を向けられているサモアはたまったものではない。
「ちょっと!セーフティくらいかけてますよね?!」
「安心しろ。セーフティやトリガーガードなんて俺にはいらねぇ。この指がセーフティだ。意味分かるか?ハハッ」
「ふざけないでください!」
銃を扱う者として冗談でもやってはならないジョークにサモアは不快感を露わにしながらこの場を立ち去った。ワーカーは小馬鹿にするように鼻で笑うと、再び鏡とのにらめっこを始める。