決着の日~2028~


自動運転車。数十年より大手民間企業によって研究開発が進められた。ある企業は独自で、ある企業は通信サービス会社と提携して競うように開発が進められたそれは、レベル分けされた手順を踏みながら発展していった。実用化には数十年かかるとされた自動運転車は「G」がもたらした目まぐるしい技術革新と、国連による国際基準作りによって想定よりずっと早く実用化され、その販売モデルがごく一部の層に普及してきている。とは言え自衛隊や警察の車輌にはまだ採用が見送られてはいるが。


一樹はこれに着目し、盗難車がそうであればハッキングを試みたが、生憎非搭載車だった。そのため逃走中である盗難車の最寄りの自動運転車を拝借して遠隔操作で走行。足止め目的で衝突させた。勿論なるべく怪我をしないように計算された角度、速度、タイミングで。


「ぐっ…」


衝突した車輌のボンネットはガードレールに深く食い込み、中からは煙が上がっている。車内ではエアバッグが作動し、どうにか無事だった験司と岸田。しかし岸田は一時的に気を失っており、シートベルトが間に合った女池も無事だった。女池は二人の様子と車輌の有様からすぐに乗り捨てを決断した。


「いてて…」
「来なさい」


弾丸を無駄にするのも惜しかった女池は岸田を無視すると頭を押さえていた験司に自動拳銃を向けた。


「でなければ岸田二曹を私の能力で引き裂きます」
「ブラフだな。そんな能力があるなら拳銃なんて必要ないはずだぜ」


験司の冷静さに我に帰った女池は自嘲気味に笑うと、験司を助手席から降ろす。験司は両手を拘束されたまま女池の先を歩かされる形で車から離れて行った。


「う…うぅ…」


それからすぐに岸田は意識を取り戻した。周りを見回すと女池と験司だけが消えており、救出されたわけでもなさそうだ。だとしたら何故自分は殺されなかったのだろうと理由を探し、意味を理解する。助手席側、角度が歪んだサイドミラーから見えたのは、車体から漏れ出すガソリンだった。いつ発火するかも分からない状況だ。


「誰か助けてぇぇぇ!!!」


岸田は脱出しようとドアノブを押そうとするが扉を開かない。ロックは解除されているが車体のフレームが歪んでおりドアの可動部に干渉しているのだ。さらにはシートベルトの金具も破損しており外せない。


「ちょっとこれどないすんの!?」


シートベルトを切れそうな物は手持ちにない。万事休すかと思われたその時、見慣れた車輌が到着した。蛍達だ。車輌からは全員が飛び降りてきた。


「岸田さん!」
「そんな!?」
「岸田!」
「俺が行きます!」


とっくに光学迷彩を解除していた凌が岸田の元へ走り寄った。


「早ぉ!ドアも開かへんしシートベルトも外せないんや!」
「くっ…」


岸田の言う通り、ドアを光刃で開けようにも多少の時間がかかってしまう。それでもやるしかないと考えた時だった。
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