決着の日~2028~
一方、車内で引き続き追求が続いていた験司。一樹からの着信にこれは幸運とばかりに電話に出た。防衛省外部からの電話だと悟られないよう、言葉遣いは改める。
「私だ。なんだ?」
『例の肉片の身元ですが落ち着いて聞いてください!』
パチンコの騒音で難聴気味の一樹。電話口でもやかましいほどの大声。お前が落ち着けと言いたかったが、女池のいる手前そんな事は言えなかった。験司は都合の悪い電話だと勘繰られるのを承知でスピーカーを手で押さえるが、情報をメールで送れと言う前に一樹がまくし立てる。
『あれは女池一美本人です!』
「どういう事だ?」
『発見された肉片は女池一美で、験司さんと一緒にいるのは女池になりすました別人です!なんで死体を捨てずいるのかは分かりませ…』
「そうか。もう切るぞ」
どうにか取り繕った験司。では後部座席に座る「女池一美」は何者なのか、悪寒が走る。見る限り写真と同一人物に見える再現度の変装。いや、その完成度から考えるにたまに出現する変身系統の能力者なのかもしれない。それも声紋や網膜認証をパスできる精度のもの。だとすれば今までとは一線を画すレベルの変身だ。
「浦園三佐」
女池に呼ばれ、思慮を巡らせていた験司はルームミラー越しに後部座席の彼を一瞥すると、サイレンサー付きの自動拳銃を頭に突きつけられていた。
「私は人より耳が良くてね。まさか家探ししてまでアレを見つけていたとは驚きました」
「女池監察官?これは一体…」
ハンドルを握る岸田が涙目で、かつ聞き取れない程の滑舌ですがってきたが女池は無視した。
「先程の通話は筒抜けでしたよ。重要なやりとりはデータを暗号化させて送らせるように教育しておくべきです」
「……」
「しかし困りましたね。Gnosisの方も私を調べていたとは」
「…どうするつもりだ」
「どうするも何も逃げるしかない。透明人間のお仲間がその気になれば私などひとたまりもないでしょう」
「何のことだ?」
験司はとぼけてみせたが、岸田が凌の存在を思い出して安堵した表情を見た女池は確信を得た。自分の手に負えない敵がいると。
「さぁ、二人とも通信端末を渡してください」
「ここで逃げおおせても、オレの仲間がお前を逃がさない」
「いや、私を捕まえられる人間はこの世にいない」
験司は運転中の岸田の胸ポケットからスマートフォンを取り出し、自分の通信端末と一緒に女池へ差し出した。それらを受け取った女池は窓から投げ捨てた。
「スマホの支払いがまだなのに…もうおしまいだ…」
「岸田二曹、君は乗り物の操作が得意分野でしたね。さぁ、先頭車輌を撒きなさい」