決着の日~2028~


同時刻。有事に備えて待機する一樹は駅近くのパチンコ店に居座っていた。最近になって台の調子をも電脳で操れるようなった一樹。全ての台を任意で『激アツ』にできるようになると副業で巡るようになっていた。ノーリスクでいい小遣い稼ぎになるが既に見飽きた演出と、利き手が疲れてくるのがネックだ。今も台のアニメ演出に大して興味もなく事務的に手首を捻り続けている。隣席の中年女性の視線も何のその、パチンコ玉をケースに積み重ねては時間が経つのを待っていた。やがて一樹のスマートフォンがバイブレーションで着信を知らせた。


「うぉ!」


我に帰った一樹はそれが八重樫や験司からではないと安堵すると、メールで送られてきたデータを確認した。昔の鑑識仲間に依頼していた肉片の情報が出たのだ。身元の照会までさせるわけにはいかないので後は自分で作業する。一樹は今日はここらが潮時であると、席を立つ。店員を呼び出し、玉運びを手伝ってもらう。一樹が退席した途端、電脳の干渉が解除された台に隣席の中年女性が飛びついた。


「これ全部換金しますんでよろしく~」
「は…はい」


一樹は早速肉片の情報を元に各省庁の照会システムにかけた。警視庁の有するデータベースに載せられた警察官や犯罪者、前科者。入国管理の要注意人物、内調がマークする国際テロリスト。パチンコ玉の数量を記録したカードを受け取り、外の交換所で換金する間に走査された。


「ん?まだか…」


残るは防衛省に保管されている自衛官やその家族のデータのみ。ヒットしたのか、やがてディスプレイに身元の顔写真が表示された。


「えらい時間かかったな…へ?」


結果は衝撃的なものだった。身の毛のよだつ情報に上手くスマートフォンを操作できなかった一樹は、周りの視線を気にする余裕もなく電脳で電話を立ち上げた。相手は勿論験司。どうにか取り繕おうと震える声。それでも換金された現金はしっかりと回収し、長財布にねじ込んだ。
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