決着の日~2028~


ワーカーの仲間は飛行場内で待機を続けていた。仕事が始まるまでは飛行場に缶詰めになるしかないらしく、皆好きに娯楽施設に出入りしていた。ワーカーはというと射撃訓練施設に入っている。地下に設けられたコンクリートの壁と換気システム以外に特徴のない空間に一人、ヘッドセットとゴーグルを着ける。


ダイスと行動していた時から射撃訓練は習慣づけられていたが、別れた後もそれは抜けてはいなかった。自前の扱い慣れた銃ではなく、現地に用意されている様々な銃を使い、メーカー毎のクセを広く把握するためにもあの二人からは推奨されていた。だが今日に至っては気合いを入れるため、自前の自動拳銃を持ち込んでいた。ワーカーは手前のパネルを操作し、レールに吊られたマンターゲットとの距離を調整。射程距離の限界まで離れさせる。


「……」


ワーカーは等間隔で連射。黒のマンターゲットには急所毎に白線で得点が振られており、胸と頭を交互に命中させてみせる。撃ち終わった後、レールに吊られたマンターゲットがワーカーの手前に配達されてきて成果を告知した。


「ん?」


撃ってから気づいたが、自前の自動拳銃の装弾数がマガジンキャパより一発足りなかった。稀にあるメーカーの不良品だろう。実戦ではこの装弾数不足が命取りになりかねず、偶然今気づいたのも運が良かったとも言えた。


「……」


しかし今は上の空のワーカー。いつもならメーカーにクレームを言ってもいいくらいなのだが、それどころではない。ダイスを守るために策を巡らせていたからだ。仮に“八重樫”に死を偽装させて逃しても“機関”が蔓延る限り逃げ場はない。彼がマークされるきっかけを作らせたハイダに何度目かの殺意と、この時ばかりはミズノを洗脳できるであろう思念の能力が羨ましく思えた。やはり自分に残された道は一つしかない。ミズノがリストの報告を上げる前にデータを消し、奴を口封じに殺す。


だがミズノを殺せても後に“機関”から嗅ぎ回られても困る。すると答えは簡単だ。事故死、或いは戦死。それさえ装えればいい。先日ミズノからもこちらの仕事を視察するために同行すると言い出してきたのだ。本来なら非戦闘要員の同行はお断りなのだが、既にこの事を見越して了承している。後は戦場で爆死させるもよし、目標の警備兵の流れ弾を偽装して射殺するもよし。


「呼びましたか?」
「サモア、頼みがある」


リストのデータもバックアップの削除を含め、任せられるエキスパートのサモアがいるのも幸運だった。データを消した後、口封じにサモアも始末すれば完璧だ。有能な仲間を手にかける事にはなるが仕方がない、ダイスのためならどんな事もやる。例えどんな強大な敵を回しても。


「ハハッ」


自分にはツキがある。信用に足る道具も、ダイスによって鍛えられた実力も。これらを駆使してダイスを守れるとあらば、冥利に尽きるというもの。これだけでワーカーの決意を後押しするに足る材料になった。こんなもの、あの女を捕らえる事と比べれば朝飯前だ。


しかし唯一の懸念材料はミズノの侮れなさ。いつの間に入れたのか、突き返したはずのミズノの名刺がポケットに入っていたのだ。密会した際に身体を接触させた憶えはなかったのに、もしかするとなんらかの能力者なのかもしれない以上はとにかく不意を突く。それしかなさそうだ。


「よし、今夜は酒を奢ってやる。何でも飲め」
「いきなりどうしました」
「お前の最後の晩餐になるからだ」
「…なんて、な。でしょう」


サモアは真面目に取り合わず、ワーカーのお株を奪う台詞を言ってみせると呆れながら退室して行った。仕事前の縁起でもない言葉に機嫌を損ねたように見えるがそれでいい。あれでもサモアは言われた事は実行する腕である。唯一不憫な点は口封じで本当に殺される事になる事。ワーカーは満足げに次のマンターゲットを配置させると再び射撃を開始した。
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