決着の日~2028~
翌日。伊吹は本庁の部長室にいた。先日の射殺事件において、刑事部長が見当違いの捜査方針を立てたからだ。現場も混乱し、納得のいかない捜査員もたくさん出ている。伊吹は同僚らと結託し、処分覚悟で刑事部長へ直談判しに来た。念のために未来有望な部下には同行を許さず、捜査を優先させた。
「ガイシャの身元が分からないのも腑に落ちませんし、現場には明らかに犯人の物と思われる痕跡が残されています!」
「ガイシャもホシも、恐らく経済ヤクザの構成員だ。昨日の会議でそう言っただろう。お前達は全員聞いていなかったのか」
「経済ヤクザがあんな口径の銃を使うはずがありません。その上ガイシャは胸を一発で仕留められている事から、ホシは射撃のプロの可能性があります。場所が場所だけにあれを疑うのは当たり前です!」
「やはり関係者に取り調べの許可を…」
「それ以上は言うな!」
腰巾着の参事官も声を荒げる。頭頂部を犠牲にして組織図からのし上がった参事官。次期刑事部長の椅子を預かるためにも、ここは梅雨払いを買って出て将来を安泰にしておきたいようで、ここぞとばかりばかりにまくし立てた。
「お前達のような一介の捜査員が気にする案件ではない!今回は極めて高度で政治的な思惑が働いている!分かったらさっさと立ち去らんか!」
「私もお前達のような優秀な捜査員を失いたくはないんだよ。君達にだって生活があるだろう」
刑事部長も結局は強権で黙らせる。ここは方便でもそれらしい言葉を並べて欲しかったところだが、それが尚のこと伊吹達を逆撫でた。伊吹以上の悪人面をしている刑事部長が、今では本当に悪役に見える。
「…失礼します」
これ以上は無駄のようだ。見切りをつけた一同はなんとか溜飲を下げて、一礼すると退室した。エレベーターまでの長い廊下を怒りで肩を震わせながら伊吹だけは我慢を続けた。エレベーターまで乗ると、壁を殴りつけ、同僚に宥められた。