決着の日~2028~


翌々日。晴天の空を飛行する一機の戦術輸送機が、横田飛行場に着陸した。近代戦闘のスタンダードであるグレー一色でペイントされた機体が駐機場まで誘導されると、両翼に配された二対のプロペラブレードがゆっくりと回転を止めた。


「やっと着いたなぁ」
「ここが本土か?欠伸が出るぜ」


程なくして後部貨物ハッチが開放されると、小隊規模の軍人が降りてきた。皆正規の野戦服を着込んでいるが、その表情には気怠さに満ち溢れた者が多い。モチベーションに各々落差があり、夜中に本国を出発した影響が時差に上乗せされているようだ。皆列を成すわけでもなく宿舎に向かい、最後にはワーカーが降りてきた。


「ハドソン・サンダース少佐でありますか」


飛行場側の兵士がワーカーの階級章を見て声をかけてきた。兵士の階級は低く、やや緊張した面持ちであった。見るからに新兵で、着ている野戦服も解れのないおろし立て。まだまだ垢抜けないまま異国に派遣されたのは気の毒ではある。兵士はワーカーの偽名で声をかけてきたが、本人はあたかもそれが姓名であるかのように振る舞う。


「そうだ」
「お待ちしておりました。装備を降ろします」
「頼むぜ。僻地に飛ばされたくなけりゃ詮索しないことだな」


ワーカー率いる傭兵部隊はヘッドの根回しで米国軍人として入国したのだった。武器の持ち込み、ID認証共にチェックをスルーできる。日本の未だに厳しい銃規制を踏まえる配慮だった。
兵士はコンテナに収納された武器をパレットごとフォークリフトで運んでいく。中身が米軍では採用されていない、傭兵一人一人の趣味に合わせたカスタムが施されていると知る由もない。


「スタイルズ、“リロード“しておけ。無駄撃ちするなよ」
「……」


ワーカーは積荷を見送りつつ、スタイルズと呼んだ仲間の左腕を鷲掴みにしながら声をかけた。スタイルズはワーカーに劣らず鍛えられた上腕の筋肉が頼もしく、大口径のライフルの扱いに長けているようだった。しかし今のワーカーの発言は銃火器の話ではないようで、別の意図を含んでいた。


「分かってる。仕事でもヘマはしない」
「だといいがな。所詮人間のお前は経験で爾落人に劣る」
「だが能力者と爾落人であればその能力で優劣がつく。そうなれば人間が爾落人を上回る時もある。俺の能力がお前より優れているようにな」
「ハハッ、楽しみじゃねえか」
「お前がリーダー面していられるのも今だけだ」


そう言うとスタイルズは仲間と一緒に宿舎へ歩いて行った。施設の兵士に敬礼して迎えられるも無視して中へと入っていく。立場を利用した高圧的な態度が目立つが、ワーカーは気に留めずに自身は飛行場の外へ出て行った。通りがてらゲートの守衛が車を貸そうと提案してくるが、軽口を叩きながら断る。


「あまり羽目を外しすぎないでくださいよ。この国は色々と大袈裟すぎます」
「分かってるさ。ちょっくら女を漁りに行くだけだ」
「はい?」
「なんて、な」


ワーカーはゲートの向こう側、つまりは日本の領土に足を踏み入れた。感慨はない。周辺住民も外人に慣れているからか奇異な視線を向けることなかった。


「ハハッ…」


この国はあの男の生まれ故郷。自分の中で最強の爾落人二人の片割れを輩出した日本がこんなにも平和ボケしているとは。以前は侍と呼ばれる兵士が主役の戦乱渦巻く時代が横行していたと聞くが、本当にそんな歴史があったのか疑いたくなる。
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