決着の日~2028~
俺は今、目の前の敵に懇願していた。仲間はこの敵の前に全滅し、俺は武器を捨ててまで無様な姿を晒している。命乞い以上に数段突飛な懇願に、敵は歩みを止めた。
「俺を…俺を連れて行ってくれ!」
俺は兵士として従軍し、投影を使って数多くの敵を蹴散らしてきた。罠や撹乱を利用し、仲間と連携して確実に仕留めていくのがスタイルだ。だが今回相手した二人の旅人により敗れた。それは俺の軍人としても爾落人としても死を意味していた。旅人の内の一人、東洋人は言った。
「お前…正気か?」
いつものように武装兵を投影して錯乱し、それに紛れて接近する仲間がトドメを刺す。そのはずだった。しかしその東洋人は武装兵に目もくれず、俺の仲間にだけ攻撃を当てた。どれも急所を狙った一撃を入れており、無駄な動きがない。東洋人は遠距離に隠れていた俺をすぐに見つけると、仲間の西洋人が弓矢で射ってきた。最初はまぐれであると高を括っていたが矢尻が自身の左腕を貫いた事でそれは確信に変わった。
「お前の能力はなんだ?」
「投影だ!幻を思い通りに動かせる。それ自体に攻撃能力はない!だから俺は武器を持って戦う。寝首を掻く真似はできない」
名前より先に能力を聞いてくるとは、やはり違う。俺に初めて敗北を教えたこの二人についていけば、もっと強くなれる。そう思っていた。それが叶わなければここで殺される。
「立て。足手まといになるな」
俺は自分の投影が通用しないダイスとウォードを格上とし、兵士としての実力が上の二人についてきた。俺は二人に憧れ、二人の要求するノルマ、技術に応え続けた。出来なければ敵を相手に何度も練習しモノにする。そうやってスキルアップすることで二人から認められ、肩を並べて戦場を駆けたつもりだった。事実、実力は二人に及ばないとしてもそれに近い戦闘力を会得したと自負しているし、二人もそれを認めてくれた。
なのに、それなのに。
あの女だ。
あの女の登場で、ダイスとウォードは裏切り、自分へ銃口を向けた。あろうことか、出逢って24時間も経ってない、得体の知れない能力の女を選んだ。クレプラキスタンでのあの仕事が俺の人生を変えやがった。
許せない。
…待て。よく考えればダイスとウォードが自分を撃つはずがない。こんなにも苦楽を共にし、困難を乗り越えてきたのだから。それにダイスだって仲間に対しては義理堅い。裏切るはずがない。そうだ、きっとあの女が自分の都合の良いように暗示をかけて操っていたに違いない。だからダイスは銃口を向け、ウォードは撃ってきたんだ。
許せない。
暗示は大元を殺せば、解除されるものだろうか。だが確実ではないのかもしれない。であれば、あの女を再び見つけ出し、暗示を解除させてから殺るしかない。
そうだ、それしかない。俺の何もかもを奪っていったあの女。何としてでも見つけ出し、捕らえる。何年かかってもいい。互いに爾落人だ。生きていれば望みはある。
「…ハハッ」
女に抵抗できない処置を施し、殺さない程度に痛めつけ、日の光を拝ませない場所に隔離し続けてやる。それからダイスとウォードを見つけ出し、暗示を解除させる。そしてあの女を痛ぶり尽くし、辱め、泣いて命乞いする様を三人で嘲笑いながらじっくり、ゆっくり殺してやる。死ぬまでの過程を全身に、その精神にまで深く刻み込んでやろう。人として当たり前の死を迎えられると思うな。お前は俺達によって裁かれる。その罪は重いぞ。精々俺と出くわすまで優雅に旅を続けているがいい。
待っていてくれ。二人とも。
俺が全て元に戻してやる。