みぎうで
一週間後。アルは臨時の演説を開いていた。ラシードの死亡が確認され、その一派が拘束、投降、死亡が確認されたからである。目下の脅威は去ったのだと国民に知らせるための場であった。
「余は父の死を乗り越え、クレプラキスタンの復興を……」
演説台の後ろには、政府高官、現正規軍最高司令官、そしてサマターも参列していた。神妙な表情を装いながら椅子に座るサマター。音沙汰のない傭兵達も既に死亡したのだと思い込み、邪魔者であったラシードももういない。サマターはこれからの自分の覇道を想像し、内心ほくそ笑んでいる。そして偽りの笑顔を振りまきながら、演説を終えたアルに盛大な拍手を送っていた。
だが数発の銃声によって会場は混乱に陥った。前国王の悲劇の再来か。民衆や政府要人は逃げ惑い、人の波が人を押し出す。会場はパニック状態だ。
「こちらへ!早く!」
それはサマターにとっても例外ではなく、自分の仕組んだ攻撃ではないことから本気で焦り、素直に親衛隊の誘導に従った。親衛隊数人に導かれるがまま、要人用の隠し通路に入る。一般の通路ほど広くはないが、安全に最短で避難できるルートだ。
「!」
しかし、通路に入った途端に入り口は爆破された。瓦礫が入り口を塞ぎ込み、サマターと親衛隊数人は中に閉じ込められた。
「早くなんとかしろ!」
「ハビーブ・サマター。話がある」
取り乱すサマターの目の前で、親衛隊二人が帽子のつばを上げた。それはここにいるはずのない二人。
「お前は…!」
親衛隊の装備を身に着けたダイスとウォードだった。親衛隊に成りすましてサマターをここまで連れてきたのだ。サマターは努めて平然の顔を作るが、何の要件なのかは言われずとも分かっていた。
「…契約違反だ」
「何の事だ?金は先に渡しただろう!不満はないはずだ!」
「そこが問題ではない。お前は俺達を陥れた」
「身に覚えがないな。一体何の証拠があってそんなことを…」
「お前と議論するつもりも、そんな時間もない。お前は俺達のルールを破った。だから俺達に裁かれる。それだけだ」
ウォードが銃口を向け、引き金に指をかけた。その瞬間サマターは青ざめる。本当にこの傭兵と議論の余地はなく、本気で手を下そうとしているのだと分かった。頼りのSPや本物の親衛隊は来ない。絶望的な状況だった。
「待て!金が望みなんだろう?そんなもの私がいくらでも用意できる!一生遊んで暮らせるだけの額だって夢じゃないんだぞ!」
二人は鼻で笑う。爾落人が一生を遊べる。そんな額、用意できるのならしてみろと。
「やはり話にならない」
「やれ」
二人の背後に控えていたハイダはサマターの頭を鷲掴みにし、打ち合わせ通りに暗示をかけた。怯えていたサマターは途端に我を取り戻し、ウォードからブルーストーンを受け取る。
「私は…この国を立て直す…」
ハイダは瓦礫を念力で退けると、サマターはそう呟きながら開いた穴から出て行った。他の親衛隊に保護されたサマター。直前までその身に起こっていた事を忘れ、王宮へ撤退していく。