みぎうで


「……」


ついに輸送ヘリは着陸した。パイロットは上手く着陸させたつもりだろうが、実際はハイダの強引かつ繊細でもある誘導によるものだ。離陸させないように機体を捕らえたままタッチダウンを維持させるハイダ。すぐさまウォードが乗り込むと、驚いたパイロットがマシンガンを向けるが無力化した。ライフルを向け、パイロットを制圧する。合図を確認したハイダはヘリへの干渉を解き、少し疲れた様子で乗り込んだ。


「ダイスは?」
「分からない。連絡が取れなくなっている」


輸送ヘリはメインローターの離陸可能な回転数を維持しながらダイスを待つ。ハイダはパイロットに言うことをきくように暗示をかけ、完全に輸送ヘリを掌握することができた。しかし着陸したヘリは恰好の的であり、できれば地上に留まりたくはなかった。いつ兵士のロケット弾で狙われるのかも分からないのだから。


「…ダイスは無事なんでしょうか」
「少し待て」


ウォードはブルーストーンを機内に固定して手放すと必視を使って周辺を見回した。ハイダも外を目視で警戒する。ダイスが合流するまでの間、時間は長い。


「見つけた。こっちへ向かっているが、敵もいるようだ」


同時に銃声が聞こえ始めた。それはダイスによるものではなく、輸送ヘリを米国陸軍と認識した民兵によるものだった。


「離陸しろ」


ウォードはパイロットに離陸を指示した。言いようにはダイスを見捨てた形となり、ハイダが声を荒げる。


「ウォード!」
「ダイスなら上手くやる」


そう言うウォードはハイダを見向きもせず、あまりにも素っ気ない一言で済ましたが、不思議とダイスへの信頼が感じ取れた。


「今は機体の保全を優先しなければならない。お前はダイスを念力で拾え。俺は迎撃する」


ウォードはドアガンに着くと民兵に射撃を始める。速射性を活かし、密集している民兵に狙いを定めて薙ぎ倒していく。こうなればただの的であった。



「逃がすな!」
「RPG持ってこい!」


高度が上がる輸送ヘリ。ハイダはウォードに言われた方角を暗視装置を使って捜索するが、ダイスの発見には至らない。熟練者が見なければ見分けのつかない装備を敵味方身に纏っていては、ハイダにとってダイスを発見するのは至難の技であった。


「あれは…」


ヘリが眼下を見下ろせるまでの高さになると、走るダイスを発見した。既に見慣れた、25kgにも及ぶ装備を担いで走る姿だった。ダイスも輸送ヘリの飛行音に気づき、こちらを見上げている。置いていかれたのではないか、そう思われても仕方のない状況ではあったが、ダイスはむしろ機体が無事だったことに安堵している様子であった。


「……」


見下ろすハイダとダイスの目が合った。今から念力でダイスを拾い上げる、ハイダは指向性の思念を送った。了解、とダイスの思念を読み取れた。


「こっちです!」


ダイスは輸送ヘリを追いかけるように追走した。やがて念力に捕まえられて宙に浮き始めるダイス。後は何もしなくても良いはずなのだが、ダイスはカービン銃の射撃で地上の民兵を牽制し始める。浮遊するダイスを見てパニックになった民兵が攻撃してくるからだ。ワイヤーで吊っているのか、米国の新技術か。民兵は現実離れした光景に怯えている。


ハイダの方も集中してダイスを捕まえる。勢いがつきすぎて怪我をさせないよう、腰を持つように念力で固定すると、上半身の可動域をある程度確保させつつ手繰り寄せていく。何事もなく接近し、回収まであと少しのところだった。


「RPG!回避しろ!」


地上から一発のロケット弾が発射された。ウォードのドアガンの死角からの射撃。パイロットは機体後部を振って回頭し、弾頭を躱す。パイロットの細かい動作で回避できたものの、ダイスは機内に入り損ねた。


「!」


一瞬だけ念力が途切れ、落下するダイス。ハイダは間髪入れず再び捕まえ、片手で懸垂降下用のグリップに掴まると機内から身を乗り出す。手を伸ばすハイダに、ダイスも手を伸ばした。やがて届いた互いの手。ダイスの鍛えられた逞しい手とハイダの華奢でありながら機能美な手が触れ合った。しっかりと握り、念力に手伝わせてダイスを機内へ引き込んだ。


「高度上げろ。戦域離脱」


機内に転がり込むダイス。ウォードは流し目でダイスを確認すると、再び眼下の民兵を警戒し続けた。表情に変化はなかったが、切り抜けるのが当たり前だと言わんばかりにドアガンの再装填を始める。


「遅れてすまない」


ダイスも何食わぬ顔だったが、すっかり装備が様変わりした姿を見て、どれだけの苦労があったのか察した。お互い言葉を交わさずとも言いたいことは分かるようだ。


「パイロットに言う事を聞くように暗示をかけています」
「よくやった。休んでいろ」


ダイスはパイロットに目的地を告げ、機体は針路を固定した。地上からの攻撃を警戒したが、妨害を受けることもなく安全高度まで上昇した。
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