みぎうで


「始めろ。援護する」
「はい」


ハイダは上空を飛ぶ輸送ヘリに向き合う。今から人生初、1500年生きて初めての輸送ヘリ強奪を敢行しようというのだ。その難易度は高く、繊細な技術とカロリーを要求されるであろう。ハイダは数秒間瞑想して呼吸を調えると上空の輸送ヘリへ両手をかざした。



「弾薬惜しむな。強奪できれば機内の武器が手に入る」
「ハイダありきか。頼むぞ」
「……」


ハイダは輸送ヘリを正面から相手せず、機体後方から地上へ引きずり降ろそうと位置取った。輸送ヘリ前方にある対戦車ミサイルとロケット弾の発射口を避けるためだ。ハイダは手始めに輸送ヘリを捕らえると機体に損傷を与えないよう力加減を微調整しながら、ゆっくりと高度を下げさせる。


『高度下がります!』
『何が起きている?攻撃か!』
『分かりません。計器類は異常なし。レーダー照射ありません』


高度が下がりつつも辛うじて90度回頭した輸送ヘリ。機体の故障や気象条件ではなく攻撃を疑う射手は眼下の敵を探すが、それらしいのはいない。代わりにこちらへ両手をかざしているハイダを見つけた。女が武器もなしに機体に干渉しているなんて一般の兵士なら思いつきもしない。だが状況の薄気味悪さが手伝い、ドアガンを向けハイダを狙う。


「!」


それを貰えばベテランの爾落人でも蜂の巣どころか身体がズタズタに吹き飛ばされてしまう。ハイダの脳裏に先程ダイスが説明した武器のスペックが過った。一瞬だが指先が狂って機体がぐらつく。


『!』
『掴まれ!』


大海原で船が波打つかのように揺れた輸送ヘリ。瞬時に高低差が入れ替わった事によりドアガン発砲のタイミングがずれ、外れた弾丸はハイダの近くに着弾した。アスファルトの道路に大きな穴を穿つことによってその威力と速射性を再認識させられた。


『何が起きた?!』
『任せろ!』


射手は再びハイダに狙いを定める。今自分が動けば干渉が解けて輸送ヘリに逃げられる。二人の援護を信じるハイダは集中し続け、その身を銃口に晒す。


『これで終わりだ』


射手は非武装に見えるハイダを躊躇いなく照準に捉える。だが間もなく彼の頭は弾丸にぶち抜かれた。敵に応戦する合間を縫って放ったウォードの狙撃だった。


『私が行く!』


反対側の射手が移動し、代わりにドアガンに着こうとする。給弾チェック、照準チェック、射撃。順序の実行すら許されず射手の頭に風穴が空いた。
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