みぎうで
「着きました」
デルタの大尉は困惑した。輸送ヘリ二機に分乗し急行してきたまでは良かったものの、目標の警察署は既に跡形もなく崩れ去り、混乱する兵士だけが残っている。このままでは所属不明のハンヴィーを発見し、対戦車ミサイルで吹き飛ばしただけでベースキャンプへとんぼ返りだ。
「本当に座標は合っているのか?」
間違いはないのだろうがパイロットに聞かずにはいられない。大尉はとにかく、折角出動した手前何もなしに帰るのは避けたかった。その願望が滲み出てていたのかもしれないが、その問いは若干の怒気が混じっていた。パイロットは気圧された様子で返答した。
「間違いありません」
大尉は司令部に詰めている大佐に指示を求めた。帰還を言い渡されないよう、願いながら。
「HQ、中央警察署は倒壊しており、“貴重品“の回収は見込めない。ターゲットも特定できず。指示を乞う」
こんなこと映像もなしに信じてもらえるのだろうか。意気揚々と出かけて行っておいて敵が壊滅していたなんて笑い話もいいところだ。
『殲滅せよ。隠密性は問わない』
「繰り返す、隠密性は問わなくて良いのか」
『問わなくて良い。なお、状況把握のため敵兵を確保せよ』
大尉は内心歓喜した。敵が壊滅状態ならいっそのこと殲滅戦に切り替えろとのことだ。これならくすぶっていたフラストレーションを発散できる。当初の作戦内容より個人的に好都合とも言える。
「了解。アタッカー1から4は作戦空域まで急行、赤外線ストロボで指示するまでは各機車輌を破壊せよ」
『アタッカー了解』
近くの空域に待機していた四機の攻撃ヘリはデルタを援護すべく針路を戦闘空域に向けた。最大の巡航速度を出しながら急行する。
「チームアルファは西へ降下、チームブラボーは南から展開する。通訳も来い」
「了解」
輸送ヘリはスタジアムのグラウンド上空でホバリングすると両サイドのドアガンで地上の兵士を一掃した。射手の隊員が肉眼で索敵しながら降下点を確保すると、輸送ヘリは地上スレスレの高度を維持しながら隊員を下ろしていく。隊員は輸送ヘリから飛び降りながら展開し、最後に大尉も降りた。
もう一機も同じように兵士を排除すると、ホバリングしたままロープを下ろして二人ずつ懸垂降下を敢行した。舞い上がる風塵やメインローターの轟音の中、先に降りた隊員が地上で警戒しながら後続を援護する。
「もういい。出せ」
『ハイパー21、上昇して援護位置につく』
隊員を下ろし終えた輸送ヘリは安全高度まで上昇した。降下した隊員は陣形を維持しながら混乱止まぬ中央警察署跡へ侵攻した。