みぎうで
「痛ぇ…あぁクソ」
「どうした」
倒れているワーカーに手を貸すダイス。
「石を落とした。どこだ?」
「あそこだ」
落としたという言葉に動揺したハイダ。だがダイスはすぐにブルーストーンを指差した。幸いにも目と鼻の先に落ちており、瓦礫も被さっておらずすぐに発見できた。ハイダはワーカーがブルーストーンを持ち続けることに妙な胸騒ぎを覚えていた。
「気をつけてください」
ハイダはブルーストーンを念力で吸い寄せて握りしめると、ダイスとワーカーの元まで持っていこうとした。その時だ。
「動くな」
ワーカーはハイダが思念を使えないタイミングで自動拳銃を向けた。ハイダはワーカーの真意を確かめようと下手に動こうとはしない。
「…何の真似ですか」
この一連の行動は、わざとブルーストーンを落としてハイダに拾わせ、ダイスを自分の方へ誘導する事で自分が優位に立つ瞬間を待っていたのだった。
「黙ってその石握ってろ。おいダイス、お前がコイツを殺せ」
「何だと?」
ダイスは呆れてものが言えなくなった。まさかこのタイミングでくだらない小競り合いを言い出すとは。しかし下手に刺激してハイダを撃たれては戦力が減る。それだけは避けたかった。ウォードもこの状況を見ているだろうが、この場所、射角的に狙撃は見込めない。
「石を手に入れた。その女はもう用済みだよなぁ?さっきのクレバーな戦り方で思い出したよ。次はコイツの番だろ?さぁどうやってコイツを殺る?お前が指示してくれ。驚かすような戦術、もう思いついてるんだろ?実行が手間なら今ここでお前が撃ってもいいんだぜ。とにかく、お前が自分の手で殺れ」
「…何をしているのか分かっているのか」
「分かってるさ。今日のダイスは納得いかねぇ。なんでコイツなんかに屈服してんだ?お前は弱いのか?そうじゃない、屈服してるダイスなんて見たくなかったんだよ」
「……」
今のハイダにはワーカーはおろかダイスが何を考えているのかすら読み取れない。このまま、自分が撃たれる可能性もあるのだ。生殺与奪はダイスが握っていると言ってもいい。縋るような眼差し、と言ったら語弊があるが、ハイダはダイスへ視線を向ける。
「今の状況で迷う時間がないのはお前が一番分かってるはずだよなぁ」
一言も発しないダイスにワーカーは確認させるように続ける。周りの兵士は三人を気に留めず右往左往するばかりだ。だがいつ三人に気づいて攻撃してくるか分からない。
「報復なんて建前はもういい。これからは代理戦争化は進み傭兵業の需要は増える。その石さえあれば強力な爾落人なんかに怯えず、戦場を蹂躙できる。またお前とウォード、俺たち三人で殺りまくろうぜ。優越感に浸ろうぜ。儲けようぜ。そして世界中回って色んな戦場を見ていくんだ。そうだろ!」
「そうだな」
引き金にかけるワーカーの指が力んだ。ダイスは自動拳銃をホルスターから抜き取るとワーカーを狙って引き金を引く。だがそれよりも早く、ワーカーはハイダに向けている手とは逆の手でリボルバーを抜き取るとダイスへ発砲した。寸での差だったが、後出しのワーカーが先にダイスを銃撃し、ダイスは銃撃に失敗した。