みぎうで


「時間を稼ぎます!」


ハイダは散らばっている武器やオフィス用品、ガラクタを念力で組み上げて壁を作るとラシードと分断した。ひとまずは銃撃を凌げそうだ。


「おいおいお手上げか?弾を反射させるなんて時間でも巻き戻してんのか」
「……」
「心当たりがあるのか?」
「…はい。ですがそれならとっくにバリケードは突破されているはず。奴はもっと他の系統の能力でしょう。思考も跳ね返らされて読めません」
「仮にあらゆるものを反射させる能力だとすると有効なのは格闘か」
「打撃も相手に反射できるかもしれません。確信もなしに仕掛けるのは命取りでは?」
「そうだ。ここは一番確実なやり方でいく」
『マズいぞ。敵はバリケード突破にRPGを持ち出している』
「行くぞ。脱出だ」
「車輌は?」
「後だ。奴を始末するのが先だ。でなければ撤退は難しい」
「名案があるのか?」
「名案ではないが一つある。ハイダ、まだ一仕事してもらうぞ」


ハイダはダイスの指示通り壁を破壊し、三人は穴から署内を脱出した。こちらを見つけて攻撃してくる兵士から武器を取り上げて纏めて圧縮すると砲弾として送り返す。さらに、ラシードがいる区画の窓や扉に鉄屑や車輌で封鎖して中に閉じ込める。


「おっかねぇな」
「走れ!早く離れろ」


三人は警察署から少し離れ、護送車の陰に身を隠す。これから始まる事への備えだった。


「やれ!」


ハイダは警察署の主要な柱を最下層から念力で破壊した。さらに壁も破壊。自分達のいる場所とは真逆の方向へ破壊を集中し、倒壊を誘う。


「爆破か?!」
「どこからだ!」


断続的に破壊音が轟き、異変に気付いた兵士がパニック状態で逃げ出す。ラシードも追撃を後回しにしてでも外へ出ようとするが鉄板に阻まれて閉じ込められたままだ。焦りが見える。


「…きます」


警察署は倒壊した。中にいた兵士諸共、周辺の兵士や車輌を巻き込み、瓦礫はラシードを呑み込んだ。ハイダはダイスの目論見通り警察署を砂塵と瓦礫の山に早変わりさせたのだ。


「ハハッ!考える事がクレバーだぜ」


押し寄せる砂塵をやり過ごす三人。兵士も外に出ていた生き残りがいたが、指揮系統を失い、混乱が生じてる。車輌部隊もサイレンを鳴らしたまま呆然と停車していた。


「敵爾落人はどうなった?」
『…死んだ。ミンチだな』


倒壊はラシードのキャパを超える攻撃が目的だった。自分を襲う弾丸は反射できても建物の質量と大きさは反射できないと踏んでの対抗策だ。仮にそれで仕留められなくても混乱に乗じて撤退する。建物そのものを利用して攻撃し、兵士も一掃する。合理的な策。


「……」


ハイダは辺りを見回す。助けを求める負傷兵や損壊の激しい無惨な死体がそこら中に転がり、地獄絵図となっている。周りを巻き込んだ被害は大きかったが、あり合わせの物や地形を利用し、なるべく敵への露出を控えた対抗策を編み出したダイスは見事だと認めざるを得なかった。
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