みぎうで


『敵爾落人との会敵は避けられない。先手を打った方がいい』
「散開!」


さらに追い討ちをかけるようなウォードの警告。スアレスとワーカーは両翼に散開し、ダイスとハイダは後方から銃撃してくる兵士を相手する。


「来るぞ。先頭を行く男だ」


ウォードの情報通りの男ーーアムリ・ラシードが部下の兵士を数人引き連れ、曲がり角から姿を現した。その姿は砂埃に塗れ、左脚をひきずっている。


「……」


ダイスは数瞬思慮した。何かがおかしい。この男は司令官でありながら、戦場と化したこの場で自らが先頭に立つというあるまじきミスを犯していた。国への背信行為に加担しているとは思えない初歩的なミス。まるで自分を撃てと誘っているかのような。そもそも手負いなのに何故追いかけて来たのか、向こうには勝算がある。そう思った時には遅かった。


「馬鹿が!」
「俺が殺ります」


ワーカーは得意の早撃ちでリボルバー拳銃を発砲、ミスの取り返しへ躍起となるスアレスも遅れて射撃した。瞬間、ラシードは不敵に笑った。


「!」
「あ?」
「スアレス!」


二人とも狙いは正確だった。ワーカーはラシードの胸を、スアレスは頭を狙った。だが依然としてラシードは健在であり、倒れたのはスアレスとワーカーの方だ。敵方からの発砲はなかったが、確かに銃撃を受けたのだ。弾丸はスアレスの首を掠めて貫通。ワーカーも防弾ベストに弾をもらった。


『奴に射撃するな!撃たれた弾を射手に反射している。銃撃戦は不利だ』


一部始終を監視していたウォードは合点がいった。ベイルを殺ったのはコイツだと。ベイルは自分が撃った弾丸をそのまま反射されて殺されたのだ。それでスナイパーが付近にいなかったのにすぐに反撃を受けた説明がつく。


「私がやります」


ハイダは念力で兵士を突き飛ばした。しかしラシードに送った分は跳ね返された。自分の念力に吹き飛ばされるハイダだが、壁に激突する前に念力をクッションにして制止、着地した。


「あぁ…クソ!」


ワーカーは自力で遮蔽物まで這って移動し呼吸を調える。ダイスは兵士へ銃声で牽制しながらスアレスを遮蔽物まで引きずり込んだ。患部を診るも、出血が酷く、処置の施しようがない。


「殺してください…」
「黙っていろ」
「もう助からないんでしょう…最期まで足手まといになりたくない…」
「……」


ダイスは自動拳銃をスアレスの頭に向けた。それまで苦悶の表情だったスアレスは安堵の笑みを見せる。


「ありがとう…」


ダイスは一発で仕留めた。遺志を汲み取った上での即決だ。応戦していたハイダがこちらを一瞥したが、気にするなと言わんばかりに銃撃して援護してみせる。続いてダイスは遺体からブルーストーンを回収した。


「あの爾落人、絶対あの女の気配を辿ってここまで来やがったんだ…あの女はどこまでいっても疫病神じゃねえか…」


ワーカーの復調は早かった。拳銃の弾丸は防弾ベストに受け止められ、命に別状はない。これがライフル弾なら助からなかっただろう。どうやら発砲した弾種が二人の明暗を分けたようだ。


「動けるな?持て」


ダイスはブルーストーンをワーカーに渡した。人間のスアレスが死んだ今、誰かの能力を犠牲にしながら爾落人同士でリレーして持ち出すしかない。この場合は火力のハイダと、敵の配置を感じ取れるダイスが優先だ。
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