みぎうで


三人の前にブルーストーンを回収したダイスが出てきた。矢継ぎ早に指示する。


「見つけたようだな。見せてみろ」
「後にしろ。スアレス、石はお前が持て」
「俺がですか」


ダイスはブルーストーンをスアレスに手渡し、スアレスは隊服の胸ポケットにしまった。


「ウォード、離脱する」
『急げ。お前も捉えているだろうが爾落人が近づいている』


四人は地上に向かいながら走り出した。


「なんで俺が石を?」
「この石を持っている間、能力が使えなくなったからだ」
「能力…封じ?」
「そんなことがあるんですか?」
「連中がこれを欲しがる理由が分かりました。このメカニズムを解明すれば対爾落人兵器になるということですか」
「…どういう理屈か分からねぇがそんなもんが存在したのかよ」


先頭を走るワーカーが静かにほくそ笑んだ。何かを閃いた悪い顔だった。


「地下三階で襲撃だ!負傷者多数!増援をまわしてくれ!」


ワーカーが重傷者を投影しながらすれ違う兵士に訴えた。迫真の状況に気圧された兵士は人手をまわし、地下へ人員を送り出す。


「なんてな!ハハッ」
「騙すのが上手いんですね」
「ワーカーも嘘は言っていない。事実襲撃はあったし負傷者もいる」
「ものは言いようですか」


四人は一階に到達した。あとは適当に車輌を奪って逃げるだけ。統率のとれない兵士は四人を気に留めない。ここまでは順調だったが、それは突如終わりを迎える。


「お前たち!上へ様子を…」


銃声。何も知らずこちらに接近してきた指揮官に銃撃してしまったスアレス。指揮官は倒れ、率いていた兵士達は一塊で行動していた四人へ銃撃を開始した。止むを得ず応戦する四人。


「これは…」
「すいません!」
「ん?あいつは射撃欲が強い奴だったか?」


まともな休息を挟まず作戦を強行したのがここに来て祟ったのだった。爾落人四人は大丈夫であったがその犠牲になったのがスアレス。長時間精神的に切迫した状況が続いた結果、ミスを誘発したのだ。


「やることは変わらない!突破するぞ!」
「巻き返します!」


こうなればと、ダイスとワーカーとスアレスはライフルを乱射して道を開いた。弾切れを考慮しない稚拙な銃撃だ。それを見越した兵士は身を隠しながら弾切れのタイミングを伺う。やがて銃撃が止んだタイミングで兵士達は身を乗り出し射撃する。


「!」
「なんだ!?」


兵士達のライフルは見えない力によって取り上げられ、ダイス達の手元に収まった。ダイス達は引き続き射撃を続ける。状況が飲み込めない兵士は仕方なく引いていく。


「気分がいいなぁ!どうした、もっと来いよ」


ハイダが兵士から武器を取り上げて供給する。兵士と遭遇する限り弾切れの心配がない今、思う存分銃撃できた。


「来るぞ!」


エレベーターから兵士が出てきた。射撃の間合いを詰められたダイスはすかさず兵士の顔面を甲で鋭く殴りつけてダウンさせると、後続から銃撃してくる兵士達への盾にする。すぐに銃撃を躊躇った兵士達。ダイスは盾にした兵士のホルスターから自動拳銃を抜き取り弾倉が空になるまで銃撃すると、今度はベルトにマウントしてある手榴弾のピンを抜いた。そのまま瀕死の兵士をエレベーターまで蹴って寄越すと、ハイダが念力で扉を閉めた。やがてエレベーターは爆風で充満し、地下まで落下していった。


「行け!」


ワーカーは一目で部外者だと分かる風貌の傭兵を十数人投影すると、自分達とは明後日の方向に走らせた。陽動だ。兵士は人員を割いて投影を追跡するが、スアレスが合間を縫って射撃して地道に兵士の口減らしを進める。幻だとバレるのは時間の問題だが、とにかく一人でも多く目の前の敵を処理していく。
37/56ページ
スキ