みぎうで


護送車が発つ前、ウォードとベイルは警察署を狙撃で狙える位置取りの学校に展開していた。乱雑に散らばったゴミ、割られた窓ガラス、錆びたロッカーが騒々しい。中は明かりを最小限に焚き、向こうからこちらの存在を気取られないよう細心の注意を払う。


「使え」


ウォードはベイルに自分の狙撃銃を渡す。驚くベイル。


「俺はM-16(ライフル)でいい。これで俺達のアビリティは安定するだろう」


要は命中率の問題だ。この距離ならカスタムされたライフルで事足りるウォードは、自分より狙撃の劣るベイルに狙撃銃を譲る。それだけのことだった。


「世辞くらい言ってくれよ」
「自分の実力を自覚しなければ死ぬぞ」
「分かってる」
『これより時刻規制を実施する。3…2…1…今』


ダイスのカウントに二人は腕時計の針を合わせた。


『ウォード、出発する』
「了解。合図を待つ」


護送車の出発を見守るウォード。周りに脅威がないかを俯瞰して監視する。


「どうだ?」
「ゲートは通過した。守衛に捕まったが機転で切り抜けたようだ」
「じゃあそろそろだな」


二人はそれぞれ武器を構える。自身は立ったまま、窓の縁にライフルをかけて接地を安定させた。


『ハイダ、始めろ』


ハイダによって二人と爾落人を隔てる壁は取り除かれた。露わになった署内の十数人。ハイダの念力で砂埃も取り払われ、透視の使えないベイルにとっても視界は良好。中には負傷し倒れている者、瓦礫から免れたが呆然としている者、逃げ出そうとしている者、それぞれだった。二人は動ける者から優先して、その頭か胸を狙って狙撃していく。


「……」


ベイルは務めて冷静に、ウォードは素早く狙いを切り替えながら指切りの単射で次々と仕留めていく。なす術なく狙撃を許す兵士。しかしあまりに一方的だった。


「……」
「あと少…!」


数人の生き残りを残したところで、ウォードの真横を弾丸が掠めた。咄嗟に隠れるウォード。言葉半ばで途切れたベイルに視線を向けると、本人は仰向けに倒れ、野戦服は上着の一点が微かだが赤黒く染まっている。弾丸は内臓に到達し、即死だった。


「狙撃だ!ベイルが即死、二人取り逃がした。移動する」


居場所が割れたスナイパーの末路は決まっている。ベイルのように反撃を受けるか、ありったけの火力を向けられてゆっくり嬲り殺されるのかの二択だ。ウォードはベイルに貸していた狙撃銃を回収すると、なるべく警察署側に姿を見せないよう、姿勢を低くして走る。


「爾落人は始末できていたか?」
『いや、移動しているようだ。逃げた奴はいるか?』
「一人それらしいのがいる。ベージュの高官服、警帽をかぶった男、左頬に傷、自動拳銃のみの武装、左脚を引きずって移動中」
『多分そいつだ。お前は次点で待機しろ』


相槌を打ったウォードは、次のポイントへ移動する。前倒しになったが、予定通りそこで署内を監視し、必要なら狙撃で援護する。ベイルがいないのは想定外だが一人でやるしかない。


「……」


ウォードは先程の状況を思い起こす。ベイルの体内に残る弾丸を透視で見たが違和感を感じていたからだ。向こうが撃ってきた弾丸はベイルが使用していたものと同じもの。しかし偵察した限りではラシード派はこちらと同じ規格のライフルを使ってはいない。それに加え当時狙撃銃を持って警戒している兵士も見当たらなかった。では誰が撃ったのか?こちらと同じ武装をした敵がいるということになるが、同じ規格を使っている米国陸軍はここにはいない。


「……」


居場所が割れたにしては先程の学校に攻撃を仕掛ける様子もない兵士。相も変わらず防衛陣形を敷いている。謎の反撃に、謎が深まるばかりだ。
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