みぎうで
「これが名案…ですか」
二手に別れた六人。ウォードベイルと別行動のダイス、スアレス、ワーカー、ハイダの四人。暴徒鎮圧部隊を襲撃し、隊服と装備を奪って着替えている。その際にダイスが識別コードや暗号、シフト等を軽く尋問し、ハイダが思念で読み取るという合わせ技でスムーズに情報も収集した。
「組織は大きくなれば互いの顔なんて知らない奴がたくさんいる。それこそ制服でしか友軍だと判断しないザルなところもあるんだぜ。人数が増えればそれに比例するんだな、これが」
ワーカーは得意げにフルフェイスのヘルメットのバイザーを下ろした。幸い女性士官の隊服も調達できたため、ハイダも同じ出で立ちだ。一同は一緒に奪ったトンファー型の警棒、自動拳銃、ライフル、ナイフ、防弾盾を身につける。
「自分の武器は持っていかないんですか。兵士は愛用する武器に固執すると思っていましたが」
着用していくダイスとスアレスを見ていたハイダ。
「それは人による。武器は所詮道具にすぎない。俺は目的を達成できるスペックなら何でもいいだけだ」
「俺も同じです」
その傍ら、ワーカーだけ自分のリボルバー拳銃も隠し持つ。鎮圧隊員の装備を丸々身につけると総重量がかさむが、安定している分には問題ない。変装とはいえ武装に抵抗があるのか、挙動がぎこちないハイダ。
「重いか?」
「はい。いつもこんなものを担いで移動していたんですね」
「…そうだな。俺達に限らず兵士は皆そうだ」
「振り向くにも重心を考えて動かなければならない。中々窮屈ですよ」
「潜入がバレるまでは捨てるなよ」
「はい」
「最後まで気を抜くな」
ダイスの激励に各々頷いた。四人は隊服と一緒に奪っておいた護送車に乗り込む。このまま敷地内に入るつもりだ。
「これより時刻規制を実施する。3…2…1…今」
運転席のワーカーは助手席のダイスに促されるとエンジンを始動させた。ハイダへの報復を憂慮した上で、ワーカーを後ろの席に乗車させない配慮の席割りだ。
「ウォード、出発する」
『了解。合図を待つ』
出発した護送車。作戦の最終的な確認を済ませながら数分走らせると、警察署への出入りを管理しているゲートに到達した。そこは過剰に武装した守衛と、シートで覆い隠された迎撃用の重機関銃が置かれている。守衛は護送車より先着していたパトカーを通すと、ゲートを一旦降ろして後続の護送車を停車させた。運転席の窓を開け、一同に緊張が走る。
「お疲れさん。いつもの出せ」
ダイスはダッシュボードから通行証を提示し、ワーカーは聞き出しておいた認証コードを利用する。
「お前らヘルメットを取らんのか?」
「あぁ。聞かないでやってくれ。皆いつ死ぬかも分からん中前線に出張ってるんだ。いつ撃たれるか気が気じゃないんだぜ」
守衛は懐中電灯で後部座席を照らした。後ろに座るスアレスとハイダ、出発時より不足した人数分の隊員の投影をまじまじと見る。ダイスは懐のリボルバー拳銃に手を伸ばすワーカーをそれとなく制止し、顎でサイドミラーを見ろと促す。意図を理解したワーカーはニヤリと笑ってみせた。
「おいおい、後がつっかえてるぜ」
ワーカーの一言に我に帰った守衛。護送車の後ろにはパトカーや輸送トラック数台が列を作っていた。そういえば拠点の移動が今日だったと気をとりなおし、追求を切り上げる。
「ゲート開けろ!通っていい」
「はーいおつかれさん」
通過する護送車。守衛は後続のパトカーを確認して通過させると次のトラックを迎える。すると列を作っていたはずのトラックが忽然と姿を消していた。それがワーカーの投影だったとも知らず、訝しむ守衛だった。
「なんてな。ハハッ」
「降りろ」
駐車して降車する四人。キーを挿したまま放置すると、堂々と署内の出入口へ歩いて行く。その際、歩哨とそれの連れている軍犬とすれ違う。愛玩用と違い訓練されているそれは、ある意味人間より厄介なものになり得た。
「!」
軍犬はワーカーに向かって吠え始めた。警戒心を剥き出し、毛を逆立てているようだ。その光景に訝しむ歩哨。
「おかしいな。一応お前の認証コードを聞いていいか?」
「あ?俺のことか」
ワーカーは認証コードをソラで言う。無線を使って照会しようとする歩哨。ハイダは敢えて歩哨から注目されるように軍犬の前に屈み、頭を撫でる。すると徐々に大人しくなっていく軍犬。
「この子も疲れている。ストレスでしょう」
それを見ていた歩哨は目を丸くした。軍犬が大人しくなるように暗示をかけたハイダ。
「…確かにここに来てからコイツを酷使しすぎてるのかもな。悪かったよ、気を悪くしないでくれ」
「気にするな。皆行くぞ」
歩哨はこれから起こる事を知る由もなく元の巡回ルートへ戻っていく。
「ハイダ、始めろ」
「はい」
ハイダはダイスの指示した通り、爾落人のいるであろう四階の部屋の辺りに一瞥をくれると壁を破壊した。ハイダにとっていともたやすく、まるで爆弾で吹き飛ばしたかのような破壊力だった。それに加えて発生した破壊音。爆発音とは違うが、異常事態を周知させるには十分な効果音だ。実際に破壊を目撃した兵士は空爆を勘違いし、警報を鳴らすと共にサーチライトを上空へ向けていた。
「行くぞ!」
捕捉で爾落人を仕留め損ねたのが分かったがそれはそれでいい。敵の注意がそこに集中し、ウォードかベイルが爾落人を狙撃できればいい。
「このまま倒壊させた方が始末が早いのに…」
「そうすれば石ころの回収もできなくなるだろうぜ。第一、つまらないだろ」
「はい…」