みぎうで


「降りろ」


ガソリンを頂戴しながら目的地に到着した傭兵達。件の警察署を一望できる崖に停車するとハンヴィーをシートで覆い隠す。


「もう着いたのか」
「あれが…警察署なのか?」


中央警察署は一見すると6階建てで横に広く、大規模な駐車場や拘留施設を備えた警察署と呼ぶには大仰な設備が目立つ。その敷地は数メートルのフェンスに囲まれており、軍用の施設と言われた方がしっくりくる。屋上はフラットで対空兵器を即時展開するには好都合な状態だ。仮にヘリがあったとしても上空から降下するのは難しいだろう。それに加えてある光景に違和感を覚える一同。


「こりゃ…どういうことだ?ラシード派の根城なんじゃないのか」


警察署はパトカーや護送車の出入りが激しく、偽装するために通常の警察業務も行なっているようだった。色んな部署があるらしく、暴徒鎮圧を装った隊員のような出で立ちの兵士も数が多い。この辺りは最近の情勢を利用しているようだ。


「本当にブルーストーンとやらはあそこにあるんだろうな?」
「そのはずです」
「待て」


まず最初にダイスが警察署内を捕捉し、ウォードが地下に至るまで署内全体を透視。状況を偵察する。手ごたえを感じる二人。


「ブルーストーンらしきものを捕捉した。地下だ」
「見つけた。地下三階の左翼から五番目の部屋だ」
「ハイダの情報通りということか」
「だが問題がある。敵は565人。内一人、爾落人がいる」
「そういうことですか」


ハイダとウォードは頷いた。皆、ラシード派がブルーストーンの価値を知っているのが不思議であったがこれで合点がいった。ラシード本人、もしくは仲間に爾落人がいるからこそ、他より優位に立とうと対抗兵器の研究しようとしている、そのように仮説できた。


「それに石の保管場所は地下だ。封鎖されれば逃げ場はない」


ウォードも補足する。6対565。アウェーでこの戦力差はキツい。ハイダも加わるとはいえどうなることか。通常ならあまりの戦力差に逃げ出すところだ。


「お前はこんな戦力差の経験はあるのか?」
「あるにはありますが、その時とは状況が違います。仲間の能力が攻撃型でしたので」
「先に爾落人だけでも無力化できないんですか?」


スアレスが不安そうに言った。


「それは難しい。潜入して不意打ちを狙おうにも、敵が熟練者ならこちらの気配に気づく」
「狙撃はどうです?」
「狙撃以前に捕捉で凡その居場所は分かるが、誰が爾落人であるかは目視しないと特定できない」
「透視だけでも特定は難しいな。攻撃型の能力の奴は大抵丸腰なんだが、署内の人間は全員何がしかの武装をしている。仮に狙撃で先に倒したとしても、署を警戒させて地下まで侵入しにくくなるだけだ」
「そんな…」
「だがそれは、爾落人は攻撃型の能力ではないことの証明になっているはずだ。俺達のようにな」
「そりゃ朗報だ。だったら殺しやすい」


皮肉かどうか、ワーカーが呟くが楽観的に行くわけがない。だがここで引き下がるわけにもいかず、ハイダは議論を進める。


「ダイスとウォードは策があるようですが」
「…プランは2つ。陽動を仕掛けて爾落人を署から追い出し、その間に回収する。もしくは爾落人の排除と石の回収を同時に行い、交戦は避けながら撤退する」
「消去法で後者だな。今の俺達で爾落人が出張る陽動は用意できない。暴徒を扇動するか米軍の大部隊でも用意しない限りはな」
「排除って意味分かるか?殺しだ殺し。後者にしようぜ」
「…私は条件通り、方針に従いますよ」


ここはハイダの反論が予想されたが条件通りのようだ。それがベストだと思うと手段を選ばないタイプか。


「スアレスとベイルはどうだ?」
「俺はこの場の決定に従います」
「俺も後者だ」


二つ返事で肯定する二人。そこに自分の意思はあるんだろうが、爾落人にここまで盲信的だと少し心配なくらいだ。


「話を進めよう。潜入するのは石と人間を捕捉できる俺と火力のハイダ、補佐でワーカーとスアレス。行動開始と共に爾落人のいる付近の壁を思念で破壊し、射角が開けたらウォードとベイルが居合わせた兵士を片っ端から狙撃する。ここで全員に当たれば自ずと爾落人も無力化できるだろう。それと並行して潜入組は石を回収し、ウォードが俯瞰して監視しつつ車輌を奪って撤退する」
「この状況では堅実な作戦だが、失敗すれば人海戦術にすり潰される。これはハイダの思念の火力ありきの部分が多い。お前を信用していいんだな?」


ウォードが念を押してハイダに問う。その目はプロの傭兵として命を預けられるか否かの厳しいものだった。


「…はい」


ハイダは無駄に語らない。その空気だけでウォードは納得したようだ。そして一同最大の不安要素は爾落人だ。見誤ると全員が返り討ちに遭いかねない。


「ワーカー、ハイダ。作戦に入る前に確認する。今までの事だがお互いの事は手打ちにすると約束しろ。戦闘にいざこざを持ち込めば死ぬぞ」
「分かってる。そこまで馬鹿じゃねえよ」
「俺とダイスを失望させるなよ」
「ハイダ、お前も分かったな?」
「はい」


仲間には甘いんですね。そうダイスの脳内に語りかけられた。訝しんだが、周りの態度から察するにどうやら自分にだけハイダが思念を送ったらしい。これがハイダなりの警告なのだろう。だがダイスから特にリアクションはなく、聞くだけに留められた。


「しかし、潜入であればどうやって中に入るんですか?」


ハイダの疑問はもっともだった。潜入するのは、白人が2人、黒人が1人、欧州系が2人、東洋人が1人。誰一人としてこの国に馴染める顔なんておらず、怪しまれずに署内を歩き回るなんてできない。


「ワーカーは顔に投影できるんですか?」
「可能だがよ、視界が遮られてしまう。それをすると透視の使えるウォードだけしか潜入できねぇ。だが案がある」
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