みぎうで


「あぁ…」


ラサットの宮殿。夜遅くに執務室に一人で残るサマターは頭を抱えていた。椅子に深々と座り、装飾の施された豪華なデスクに肘を突き文字通り頭を抱えている。全ては思い通りに事を進めていたのだ。今日までは。


「……」


サマターはラシードと手を組んでいた。アルを傀儡に仕立てた上で国を牛耳り、米国の後ろ盾を得てお互いが私腹を肥やすために。そのためにも国王を暗殺し、ラシード派を悪者に仕立てさせ、巨悪の存在を演出する。かつ、民兵にも粗悪品の武器を多数流通させ、情勢不安を煽り石油利権をチラつかせた上で米国を引きずり出した。そして脅威である民兵や反乱分子を始末してもらい、ラシードはどさくさで死を偽装。
さらにはブルーストーンの兵器研究。世論上自国の秘宝を表立って研究できないため、ラシードに強奪された体を装いつつ、そのまま歴史上から退場させる。そして思う存分開発に充てるのだ。ラシードはそのまま地下に潜って裏社会を支配し、必要悪を維持し続けてサマターの手腕をアルへと刷り込ませて盲目的に手懐ける。さすればこの国は思いのままだ。それがラシードとサマターが共に企てたシナリオだった。


だがそれだけではない。サマターにとってラシードは不安定な存在であった。形なりにも目的を同じくする同志であったが、ラシードは自ら裏社会に身を置くような貧乏くじを自分から志願したし、ブルーストーンの利用価値を自分へ提唱してきた。あの秘宝は特定のものに対して抜群の破壊力を生み出せると豪語していたが、その根拠はどこから来ているのか。ラシードの思考には不思議に思うことがあった。何か得体の知れないことを企んでいるのではないか。自分を裏切るようなことを。それ故に後々ラシードにも米国陸軍を差し向けて始末し、自分だけがこの国を支配する。それこそがサマターの考えた真のシナリオだ。米国はラシードと自分が繋がっていることすら知らず、ラシードを討てれば国際世論的にも納得させられるというわけだ。全てはサマターにとって計算しつくされた計画だ。


そして一番の問題は国王の暗殺だった。米国、ひいては世界にインパクトを与えるためにもなるべく衆目が集まる場での暗殺が望ましかった。その舞台として月一で開かれる演説がうってつけだったのは良かったのだが、殺害方法の選定に苦労した。毒殺は以ての外で、親衛隊の爆弾対策は徹底しており爆弾を持ち込ませるのは至難の業であった。よって警戒外、アウトレンジからの狙撃がインパクト的にも好ましいということになったが、ラシード派はおろか正規軍人にそのような優れたスナイパーはいなかった。仕方なく外部から傭兵、狙撃屋を探した結果裏社会で暗躍するスナイパーへコンタクトする事に成功したのだ。
スナイパーは東洋人の傭兵と共に行動しており、暗殺だけではなく傭兵としての売り込みもかけてきた。当たり前だが法外の報酬を要求してくるも、サマターにとって好都合だったのだ。彼らには米国陸軍遊撃の依頼を出して国内に釘付けにした後口封じに殺すつもりであった。だがそれがどうか。肝心の傭兵どもは差し向けた米国陸軍の包囲網を突破して姿を眩ませた。ここで取り逃がしても用意したセーフハウスに仕掛けた爆弾がある。しかし見張りとの定時連絡が途絶えた事で不安は最高潮に達していた。もしも生き延びて、レコア襲撃もセーフハウスの爆弾もクライアントである自分の差し金だと勘付いて暴露でもされたら全てが水の泡だ。生き残ったのがあのスナイパーと東洋人であるなら。


「……」


不安定要素の前にサマターは意を決するとベースキャンプの大佐に連絡をとった。予定より早いが、暴露されてしまうより早くラシードを始末し、自分の地位を確定させるしかない。


「…私です。こちらの密偵がラシードの居場所を割り出しました。座標は…」
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