みぎうで
ダイスとハイダは屋内に入り、ワーカーの拘束されている部屋まで直行した。口数の少ないハイダ。
「騒がしいな。出番か?」
「民兵が来た。脱出する。お前も武装しろ」
ダイスはワーカーの目前に彼の装備を置くと、拘束を解いた。ワーカーは悪びれる様子もなく立ち上がり、手首の調子を確認する。
「俺はお咎めなしか?」
「今はな。処分は後で決める」
後で決める。つまり、働き次第では挽回のチャンスがある。張り切って装備を着ていくワーカー。ハイダを目に留めるとわざとらしく歯を見せてはにかんだ。
「よォ、膝蹴りで済めば安いもんだと思わないか?」
ハイダは念力でワーカーが身につけたばかりのライフル、自動拳銃、散弾銃、リボルバー拳銃をぶん取るように取り上げる。見えない力になすすべなく丸腰にされたワーカー。
「おい!」
「自分の背後には気をつけてください。私も気をつけます」
ハイダはワーカーの足下に武器を置いた。舌打ちしながら拾い上げていくワーカー。ウォードが続いて釘を刺した。
「それくらいにしておけ。お前を置いて行ったところで暴徒と化した民兵にリンチに遭わせるわけにもいかないだろう。襲撃のタイミングに感謝するんだな」
「そうだな。この女が気に入らないのは変わらないが、そんなことで揉める暇はなさそうだ。俺はベストを尽くすぜ」
「スアレス、大丈夫か?」
「こんな事になるなんて…」
子供を見逃した事で招いた事態にスアレスが打ちのめされる。
「気にするな。子供を見逃せと指示した俺の落ち度だ。ウォード、連中の武装は?」
「東側のデッドコピーだ。火力的な脅威はないが数が多い。全員の相手はできないな」
「やはり突破するしかない。戦力は正面に集中しているか?」
「そうだ。武装もそっちに集中している」
ダイスが建物正面に大人数を捕捉した通り、人数分の武器も持っているようだ。ならば包囲の薄い所を突くのが定石。
「俺とワーカーとスアレスは爆薬を設置する。ウォードは監視、ベイルは水と食料を積め。戦闘になる前に出るぞ」
残された時間はない。だが割り振られた仕事を片付けていく傭兵達。スアレスはワーカーの作った爆弾を遅効性の起爆装置であちこちに仕掛けた。ダイスとワーカーも蓄えの爆薬を車庫の出入口反対側の壁へ半円状に仕掛け、ハンヴィー一輌が丸々通れる程度を形作る。準備後、ハンヴィーには運転席にウォード、助手席にワーカーが座り、銃座にベイルが着くと残りは後部座席へ。
「行くぞ」
ライフルだけで武装した民兵が包囲を狭めていく。見よう見まねの素人軍人が大声で叫びながら詰めた。そのタイミングで起爆し、車庫の裏側を爆破した。
「!」
「伏せろ!」
「裏だ!攻撃か!?」
民兵を巻き込んだ爆風。瓦礫と粉塵に紛れてバックで発進したハンヴィー。同時にワーカーが建物屋上や周辺に武装兵を投影し、四方へ銃撃させて撹乱する。予期せぬ爆破と攻撃に状況が飲み込めない民兵はがむしゃらに銃撃し始め、的を絞れない。さらにワーカーは囮のハンヴィーも数台投影し、明後日の方向へ走らせる。統率の執れない民兵に対し、陽動は完璧と言えた。民兵の銃声と後続の爆破を背に走り去るハンヴィー。損耗はない。
「こんなものだな」
「それで、これからどうする?」
「このまま中央警察署へ直行する」
「もう少し休まないか?」
ベイルが苦言を呈する。
「連中は明日、拠点を移すようです。よって夜襲するには今夜、夜が明けるまでしかチャンスはありません」
「ならば仕方ない、か」
「交代で運転しろ。移動時間で休め」
ハイダに頼らず自力で突破した傭兵達。あくまでもハイダとの約束事を守りながら、予定より前倒しになる形になったが、六人は目的地を目指した。