みぎうで


少し経った辺りでダイスがハイダの様子を見にきた。ハイダは屋上に腰掛け、指を組んでいる。ダイスの接近に気がつき顔を上げた。


「落ち着いたか?」
「はい。何故状況が分かったのですか」


命を狙われた直後だというのにすぐ気をとり直していたのはさすがというべきか。元々その辺りがドライだとは思っていたが予想以上だ。


「ウォードにコーヒーを持っていった時に部屋を透視させた。お前が罠の近くまで連れていかれたのを発見して急行した」
「罠はダイスが指示したものかと思いましたが」


急造とは思えない罠の作り込み。酸の入手を考えるとワーカー一人で用意したとは考えにくい。


「ワーカーの独断だ。あれの完成度から疑っているんだろうが、元から迎撃用に設置していたものだ。こんなことに使われるとは思ってもいなかったが」
「私がこのまま死んでしまった方が都合が良かったはずでは?」
「石の奪還のためだ。確かにお前はクライアントでも、仲間でもない。経緯はどうであれ敵でもなく一時的に目的を共にできるのであれば助ける理由は十分だ」
「……」


過激な面を見せ、言葉ではそのような体を言いつつも、根本的にはこの東洋人も時間の彼女と同じく正しくあろうとしているのかもしれない。そう思えてきたハイダ。


「ワーカーは回収した爆薬で手製の爆弾も作っていた。釘や弾丸を混ぜた殺傷力は高いものをだ」
「余程私が嫌いのようですね」
「そのようだ。酸で殺せればよし、部屋に隠していた自動拳銃で射殺できてもよし、手製の爆弾で殺せてもよし。何れにしても生きながらにして惨殺するのが目的だったらしい」


本当は酸と爆弾、両方で始末するつもりだったのだろう。あの時解除した爆弾を使おうとは、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのか。ワーカーの手口に悪寒が走った。


「彼は?」
「拘束してウォードに見張らせている」
「この男は危険です。殺意を隠すのが上手い。直前まで読み取れなかった」
「確かに危険かもしれない。だが作戦からは外せないぞ」
「私が穴を埋めます。多少の荒事は引き受けます」
「…待て。話は後だ」


ダイスは話を遮るとウォードを呼びに行った。ウォードは見張りをスアレスに任せると、ダイスに言われた通り能力を使いながら周りを見渡し、何かをダイスに報告した。するとダイスは三人に武装を指示すると、自分も武装しながらハイダの元へ戻ってくる。


「どうしました?」
「すぐにここを発つ。さっき逃した子供が民兵を連れて戻ってきた。包囲されつつある」
「それは…」
「無用な殺生は無駄な戦闘を生むと言ったな。今の状況が俺が子供にも容赦しない理由だ」


そう言ったダイスはライフルにマガジンを装填した。
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