みぎうで
「ハイダ、来い」
ダイスとハイダは階段を上がり、二階の部屋に上がる。何もない殺風景なところだがどうやら食糧が隠してあるようだ。
「ダイスは休まないのですか?」
ダイスは武装を解き、自動拳銃のみをホルスターに引っさげた。ヘルメットも脱ぐとショートのオールバックの髪型が露わになる。予めこの建物に置いてあった蓄えから、コーヒーの用意を始める。
「後で休む。先に他の四人を休ませるのが先だ」
ハイダとは利害の一致から共同戦線を張る運びとなり、心なしかダイスは態度が軟化しているように思えた。ちらほら先程のことを責める眼差しもあるが。まるで所属や畑が違うが共に作戦行動をとる友軍ような接し方、緊張感だ。
「お前、さっきは念力でライフルをはたき落したな」
ダイスは厳つい目つきをさらに鋭くした。彼はハイダが少年の腕に念力を加え、ライフルを捨てさせて投降させたように見せかけたのではないかと疑っていた。
「はい。あのままではあの子供を撃ってましたよね?」
「当たり前だ」
「何もそこまですることはないのでは?無用な殺生は無駄な戦闘を産みます」
「それは場合による。時には殺して片付けた方が脅威の排除になる時もある。特にこの国のような治安ではな」
「脅威って…まだ子供ですよ」
「そうだまだ子供だ。だが武器を手にしてしまえば年齢なんて関係ない。これでも初っ端射殺しなかっただけ配慮している」
「それはあまりにも極端です」
「俺達にとってこの世界はそんなものなんだ。殺るか殺られるか。子供は殺さないなどと大層な美学をかざしたところでそれは命取りになりかねない。見逃すことで発生する厄介ごとがあるのも忘れるな。俺はその可能性を潰すためにも殺害という選択肢を選んでいるだけだ」
「…捕捉や必視の能力が、自分達をそういう考え方にしているんですね」
「それも思念で分かるんだな」
「使わなくとも分かります。その偏屈な目をを見れば誰でも察しがつきますよ」
ハイダにとってダイスは今まで会った事もない種類の爾落人だった。今までは敵味方関わらず自分が強力な能力だからこその余裕や慢心、その一方で自制できる精神を持ち合わせている人物が多かった。だがこの傭兵は戦闘において直接攻撃の能力ではない。だからこその思考回路なのかもしれない。
「ここにいる連中は自分の能力に苦しんでいる。持つ者と持たざる者。爾落人が生まれつきで決まってしまう優劣にだ。だがそんなことで悩んでもどうすることもできない。それを人間との戦闘を捌け口にして優越感を感じ、気を紛らわす。ただの戦闘狂の集まりだ」
「……」
「見損なったか?」
「見損なうほどまだ信用してませんよ」
「違いない」
長い時を生きる爾落人にそれぞれの能力や人生がある通り、お互い生きてきた世界が違う。二人の会話はここで終わった。これ以上は不毛だったからだ。ダイスはコーヒーを淹れ始め、ハイダは椅子に腰掛ける。静寂が訪れる。
「……」
「……」
ここまでのやり取りで傭兵達の人となり分かった気がした。ダイスはリアリスト。目的を達するに事に置いてはできる限り可能性を潰し、優先順位で即決を下せる。その過程において躊躇いなく人を殺害できる、誰よりも優れた人間を殺せる機械になれる素質があるであろう。一方で仲間やクライアント、利害の一致している者に対しては配慮が届いている。依頼に対してクライアントの意にそぐわない行動は慎み、何かをやるにしてもワーカーかスアレスかベイルを随伴させ、経験を積ませて育てる。二手に別れる場合は大体ウォードとは別行動をとり、別班の指揮を任せている。これについては長年の相棒としての信頼から任せているのだろう。
ウォード。リアリストの他に殺害に躊躇いがないところもダイスと似ており、後はやや寡黙で狙撃におけるプライドが高い。他の技術は勿論高いが、傭兵よりかはスナイパーとしての意識が前面に出ていると言えた。ダイスとは最小限のコミュニケーションで連携が取れる辺り付き合いの長さがそれを可能にしているのだろう。
ベイルとスアレス。この二人はダイスの意向に逆らわない。爾落人の下に就いて経験を積みつつ金のために傭兵をしている風だ。やや感化されているか。
ワーカー。問題はこの男だ。時折自分へ向けられる殺意。一番注意しなければならない。他の傭兵は戦闘においては信頼を置いているみたいだが、平時での彼の扱いには少し手を焼いているようだ。ただ自分を満たそうと傭兵をしているようで、五人の中では一番の戦闘狂と言える。とりあえず、奪還が終わるまでの付き合いのつもりだが気は抜けない。