みぎうで
「中に人がいるな。一人だけだが」
「またトラブルか?この国の建造物において錠はあってないようなもんなのか?」
「…見つけた。子供だが、ライフルを持っている」
「民兵か。外から狙えるか?」
「不可能だ。窓まで誘き出せれば別だが」
「仕方ない。追い出すぞ」
ダイスはそれぞれに建物を包囲するように指示をすると、スアレスと共に中に入った。妙な胸騒ぎがしたハイダもそれに続く。
「お前は外で待った方がいい。荒っぽいことになるかもしれない」
「だから行くんですよ」
三人は捕捉を頼りに子供のいる部屋までたどり着いた。気取られぬよう、手鏡の反射を利用して様子を伺うスアレス。そこにいたのは少年という表現がしっくりくる男の子だった。薄生地の半袖半ズボン。なんでここに屯しているのかは分からない。違和感があるのは、その未発達な身体に不釣り合いなライフルを持っていることだ。明らかに扱い慣れていない担ぎ方から、暴発でこちらが危険になる可能性があった。スアレスは物音に細心の注意を払いつつ、情報を手信号でダイスに伝える。そして、ダイスは手信号で指示を返した。頷くスアレスがカウントダウンを開始した。
「銃を下ろせ!」
ダイスとスアレスは少年の目の前に現れた。狙いを絞られないよう二方向に散開。ライフルを向け、威嚇する。今にも発砲しそうな気迫だ。まさか子供にも容赦ないのか。彼ならやりかねないと、ハイダに不安がよぎる。
「ライフルを下ろせば手荒な事はしない!」
「早く下ろして!」
「ひっ!」
怯えた子供はライフルをダイス達に向けようとした。発砲の判断に戸惑うスアレス。しかしダイスは躊躇わず、少年を撃とうと引き金を引こうとした刹那、少年はライフルを床に叩き落とした。一瞬、自分の意思ではなさそうな表情をした気がしたが、すぐ外へ逃げて行く。
「どうします?」
ライフルのサイトに少年を捉えたままのスアレス。ダイスはハイダを静かに一瞥しつつ判断した。
「見逃してやれ」
「民兵はどこも人手不足ですか。武器の扱いくらいはしっかりさせてほしいもんですね」
スアレスがライフルを回収した。それがベストセラーのデッドコピー品だと分かった途端に鹵獲を諦めてライフルをバラし、細かい部品を窓から放り捨てる。ダイスは改めて指示を出した。
「全員中に入れ。ワーカーはハンヴィーを中に停めろ。休息だ。出発は…3時間半後とする」
警戒を解き先に中に入るウォード。ハンヴィーをセーフハウス屋内の駐車スペースに停めたワーカーは、ベイルとシャッターを閉めるとさすがに疲れたのか、仮眠がとれる部屋まで直行した。装備を外し、横になる。やっと落ち着いて休める。
「……」
疲れた。だが楽しかった。ダイスの言う通りやれば難しい事も切り抜けられる。自分達の限界を知る指揮官ほど状況判断に長けた奴はいない。好戦的な自分にとっては歯止めになれる必要な存在だ。
「…クソッ」
そしてクライアントに裏切られた。自分達に国王を暗殺させ、米国陸軍の口減らしという過酷な仕事を請け負ってやったというのに。そこまではいい。何のために自分達を使おうが金さえもらえればいい。だが口封じしようとしたのは無性に腹が立つ。それとハイダ。いきなり出てきて協力しろと脅迫してきやがった。結果的に協力することになったが、気に入らない。あの女をどうにかして始末できないものかと思案を巡らせる。この考え事も見抜かれているかもしれないが関係ない。
「フッ…ハハッ」
突然閃いた。
「ベイル、お前あっちで寝てろ」
「へいへい」
確かここにはあれがあったはず。ワーカーはベイルを追い出すと、一人で何かの準備を始めた。