みぎうで


「荷物を降ろせ」


ティーチンのセーフハウスに到着した一行。休息を取ってパフォーマンスの維持をと提案し、それを呑んだハイダ。まめに運転を代わりながら、途中でガソリンを頂戴して到着したのだ。降車する面々の中で、建物を透視したウォードが異変に気づいた。


「皆待て。中に爆弾が仕掛けられている」
「なんだと?」
「ワイヤー式だ。リモコン起爆ではない。扉を開ければ仕掛けられたTNT爆薬が連動して建物全体を吹き飛ばす配置だ」
「ウォード、それとなく周りを見てみろ。近くにここを監視している奴がいないか?」
「待て」


ウォードは透視と望遠、暗視の併用で周りを見回した。すると難なく監視者を発見した。現地人に扮した男が二人、双眼鏡でこちらを見ている。口が動いている。読唇術によると、早く中に入りやがれ、そう言っていた。


「5時、200m、赤い屋根の二階建て、男二人、リモコンなし、人種は現地人、武装は自動拳銃」
「ここから狙えるか?」
「可能だが間違いなく気取られる」
「俺とスアレスとワーカーが包囲する。合図したら一人を無力化しろ。殺すな」
「分かっている」
「来い」


ダイスとワーカー、スアレスは男が監視している場所から死角の道を通り、建物を包囲していく。その間、ウォードとベイルはハンヴィーにシートを被せて隠すフリをした。ここはハイダも邪魔をする気はないらしく、壁にもたれかかっている。


『ウォード、始めろ』


ウォードはライフルを持った。気取られぬようノンサイトで構えると、男へ発砲する。わざわざ狙撃銃を使うまでもない距離だ。弾丸は男の肩を貫く。


「!」


被弾した男と身を隠す男。身を隠した男は自動拳銃で軽傷だった男を射殺した。男は殺した男から自動拳銃を回収して逃亡しようと、建物の一階へ降りた。一刻も早く逃げなければ。はやる男は裏口から飛び出した。


「ぐぉ!」


その瞬間、待ち伏せていたダイスに左膝を撃たれた。前のめりに転倒する男。それでも自動拳銃で応戦しようとするが、握っている右手ごとライフルで撃たれた。


「待ってくれ!抵抗はしない!」


そう叫ぶ男は左手で回収した自動拳銃を懐から出した。しかし照準はダイスではなく、自分の頭だった。しかしダイスは自決を許さず、左手も撃った。


『ウォード、終わったぜ。こっち来いよ』


ワーカーに促され、残っていた三人もダイスの元へ移動した。すると、ハイダは目の前で繰り広げられていた光景に目を覆いたくなった。


「これは誰の差し金だ?答えろ!」


流血している男。ダイスは男から武器を取り上げ、髪を掴むとコンクリートの壁に何度も顔面を打ち付けさせている。


「知らない!本当だ!」
「なら思い出させてやる!」


ダイスは男を殺さず、気絶しない程度に傷めつけた。銃槍をブーツで踏みにじり、ライフルのストックで殴る。それを何度も繰り返す。今までそんな仕打ちを受けた事もあったし、したこともあったからこそそんな経験が、絶妙な加減を生んでいく。


「思い出したか?」
「……」
「こんな事に時間はかけられない。答えないなら次だ」
「おいおい、早く答えた方が楽だぜ」


ダイスは抵抗する男の両脇をベイルと共に抱え、近くの水溜りまで引きずった。すると再び男の髪を掴み、濁りきった泥水に顔面を漬けた。一秒経つ毎に限界を訴える男。数十秒経った辺りで男の顔面を引き上げ、呼吸をさせた。過呼吸気味に息を吸う男に、容赦ない言葉を浴びせる。


「誰の差し金だ?」
「知らない!信じてくれ!」
「それは俺が決める」
「待っ」


ダイスは男の乞いを許さず、水責めを再開した。その光景を見るに堪えない様子のハイダ。早く思念の一回を要請しないかと思ったが、そんな様子はない。ダイスは貴重な一回を大事に取っておくつもりのようだ。ハイダは止める者はいないのかと周りを見るが、他の傭兵は気にする風もなく周辺を警戒している。むしろダイスに任せている感じだ。目の前で繰り広げられる光景に見かねたハイダ。


「ハビーブ・サマター」
「…何故その名前が出た?」
「その男から読み取りました。ハビーブ・サマター。その人物が仕向けたようです」


ハイダの口から出たその名前に驚いたのか、傭兵達は顔を見合わせた。ワーカーは舌打ちし、壁を殴っている。貴重な一回を勝手に使ったと言われるのではないかと思っていたハイダは少し面食らった。


「何者ですか?」
「…前国王殺害を依頼した王室補佐官の男で、俺達のクライアントだ
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