みぎうで






一ヶ月前。


「これより、私は……」


首都ラサットにある演説会場。総動員された正規軍の警備の中、壇上の国王は演説を行っている。国中に中継されて注目される重要な演説だ。壇上には王妃を含めたクレニスタ家が一堂に会している。そこから直線上に遠く離れたビルの階層に、三人の傭兵が潜伏していた。


「始まったな。これからどうなるかも知らずに」


ワーカーが眼下の民衆を見下ろしながら呟いた。ダイスも狙撃スポッター用のスコープで周辺の警備をチェックしている。その横で、狙撃銃を組み立てるウォード。ターゲットを殺害するために、三人はここに来た。隠密を期すため服装は現地の風習に合わせたものに着替え、武装も最低限に留めている。


「外のコンディションは良くないな。当てられるのか?」


ここからターゲットまではかなり離れている上、建物と建物の合間を縫うような高度な狙撃を要求される。さらに外の悪天候。空を仰ぎながら、ワーカーが冗談めかして聞いてくる。ウォードは狙撃銃に弾丸を装填することで返事した。


「よし、気取られるなよ」


外のベイルとスアレスから退路を確保したとの連絡がきた。後はウォードのタイミングで仕事をするだけだ。ウォードが窓から狙撃銃を構え、タバコに火をつけた。喫煙のためではない。風向と風力を測っているのだ。ウォードは高度、距離、湿度、風向きと強さ、全てを計算して発砲のタイミングを待つ。


「……」


小さな的を狙え。頭を狙えば弾は外れる、目を狙えば頭に当たる。そうやって目標の着弾点を絞っていくことで精密さを磨いていくのが、ウォードの持論であった。


「ワーカー、脅威は?」
「ないな。どうせこんなところから狙撃できるわけないなんて思ってるんだろ。ハハッ」


ダイスはスコープで民衆を見張っていた。捕捉した民衆の中に紛れる爾落人を警戒しているのだ。先程それを特定しその女をメインに周辺を監視するが、同じタイミングで女も振り向き、虚を突かれた形で目が合った。向こうからは見えるはずもない距離なのだが、驚きでどうしても眉をしかめてしまう。これが、国王へ向けられている殺意で勘付かれたとは知る由もない。


それと同時に訪れた一瞬弱まった風。その瞬間、ウォードは狙撃銃の引き金を絞った。ターゲットの国王は糸の切れたマリオネットのようにその場に倒れる。すぐにSPが駆け寄って壁を作り、警戒するも遅い。続いた次弾は王妃を貫く。


「やっぱすげぇよウォード。この天候で普通当たらないだろ」
「讃えるなら後にしろ。退くぞ」


民衆がそれを狙撃だと理解するのに時間はかからなかった。パニックになった民衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。警備の誘導を無視し、我先へと走る。街の四方へ逃げていく民衆に紛れ、三人は犯行現場から撤退した。
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