みぎうで
「久しぶりにスカっとしたぜ」
新たな追っ手がいないのを確認すると、ワーカーは銃座から降りてきた。運転を続けるダイスに問いかける。
「これからどうするんだ?」
「ティーチンのセーフハウスへ行く。状況を見て国境を越えるぞ」
ティーチン。クラプラキスタン南部に位置する都市。資源採掘施設が多数建設された、輸出産業を支える都市だ。
「この国での仕事は終わりかよ」
「まだだ。状況を見てと言っただろう。再度クライアントにコンタクトしてから決める」
「こうなってしまったんだ。このままフケた方がいいんじゃないのか?」
「それはやめておきたい。今回のクライアントは大物だ。何かあったら匿ってくれるようなコネも作るべきだ」
「この手の王制国家は他国と引き渡し協定を結ばない傾向にあるからな」
ウォードも補足した。反論はない。目的が定まったところで今度は矛先が女に向く。ワーカーはわざとらしくオーバーリアクションをとった。
「それにしてもこいつはとんだ疫病神だ。お前がいなければ穏便に逃げられたのにな」
「…お前、名前は?」
ワーカーを身振りで制止し、ウォードが口を開く。女は臆することなく口を開いた。
「私はハイダ。…爾落人です」
「そんなことは分かっている。何故このハンヴィーに乗った?」
ダイスはハンドルを握りながらも、ルームミラー越しにハイダを問い詰めた。すると彼女と一瞥するタイミングが合った。
「敵意を、感じなかったので」
「……」
ダイスは思案した。欧州方面特有の顔立ちが凛々しい雰囲気のハイダ。世の中に達観している風の眼差しから、自分より年上なのは直感で分かった。そして武装した男に囲まれても動じない辺り、戦場慣れしているだろう。旅人だろうか。目立つ服装でありながら武器の携帯を考慮していない。だからこそ、この女があの街にいたのが謎だ。
「何故あの街にいた?旅人にしては物騒な場所が好みらしいな」
「私がレコアを訪れたのは、ある調査のためです」
「調査?」
ベイルが残弾を数えながら聞く。
「ブルーストーンと呼ばれるこの国の秘宝を奪還するために所在を探していました」
「つまりお前はここの政府に雇われているんだな」
「いえ、私の独断で動いています」
「ハハッ、チャリティーで動くとは立派なもんだ」
ワーカーが馬鹿にしたように笑う。嘲笑染みている。
「あなたたちも他人事ではありませんよ」
「なに?」
「これは一ヶ月前の事件が発端です」
一ヶ月前。事件。この単語で車内の空気が変わった。ダイスとウォードは平然を装っていたが、スアレスとベイルは身構える。ウォードが切り出した。
「…一ヶ月前というと国王暗殺か」
「はい。前国王が狙撃される直前にその殺意に気づきました。しかし攻撃を防ぐ間もなかった」
そう言ったハイダ。彼女の周りに座っているワーカーとスアレスが彼女に気取られぬよう、それぞれが死角の腕からベルトの自動拳銃に手を伸ばした。
「それを後悔しています」
ワーカーは頭を、スアレスは左胸を。二人は抜銃するとハイダのそこを狙い、閉所でありながらも至近距離で引き金を引いた。