みぎうで
ハンヴィーは郊外に出た。既に爆音からは離れており、周りで銃撃戦もない。しかし建造物は少なく、上空からハンヴィーは丸見えだ。もし再び攻撃ヘリに狙われれば逃げ切るのは難しい。
「もう追っ手はないのかよ」
「それらしい人間はいない。強いて言うならばガンシップだ」
ダイスは9時の方向に飛行しているガンシップを一瞥した。相変わらず左旋回しながら眼下の戦場を監視している。
「ガンシップは我々に気づいてないんじゃ?」
「だろうな。だが後のことを考えるとここで墜としておきたい」
今脅威でなくとも、今後が楽になる。あの手の兵器は本国から少数しか持ってこないだろうし、なくなってしまえば向こうの作戦の幅が狭まる。今後自分達が何をするにしても貴重な戦力を削っておきたいところだ。
「アレを墜とすとなるとスティンガーか?」
「いいだろう。使え」
「よし」
「まだバッテリーに繋いでないぜ」
「40秒以内に繋げればいい。ワーカーは先に始めろ」
銃座のワーカーは携行式の地対空ミサイル発射機を右肩に担ぐと、ガンシップをロックした。捉えたガンシップをハンヴィーの走行に合わせてスコープで捉え続け、ミサイルを投影した。航跡や羽の展開まで再現した発射だ。ガンシップ機内ではロックオンのアラームがけたたましく鳴った。
『ロックされています!ミサイル接近を目視!』
『捕捉はなかったぞ!』
『いいから回避だ!』
ガンシップは両翼からフレアを連発で出した。その数は十発。真昼であるにも関わらず眩く光と熱を放出するそれはまるで単色の花火のようだ。ガンシップはフレアを囮に急旋回してその場を離れる。ミサイルはフレアに導かれるかのように軌道が逸れて起爆した。そのように見せかける。
『よし!』
『次弾接近!』
『なんだと!?』
ワーカーは発射機でロックし、一発ずつミサイルを投影し続ける。それをガンシップのフレアが尽きるまで繰り返した。ウォードは望遠と透視で残弾をカウントしていく。
「…今のでフレアは尽きた」
「ワーカー、撃っていい」
「待ちわびたぜ。おい」
ワーカーは発射機の頭をスアレスに突き出し、スアレスは実弾を籠めた。同時にバッテリーを繋いだベイル。これからが本番だ。
「頼むぜ」
実弾入りの発射機を担ぐワーカー。先程とは打って変わって重量感が加わる。ワーカーにとってこの重さが心地いい。
「ご苦労さん。なんて…な!」
引き金を引くと発射機のバックブラストが後方に抜けた。硝煙はハンヴィーの走行に流れ大気に溶けていく。無反動で解き放たれたミサイルはガンシップを追尾する。
「いいねぇこの感じ」
フレアが尽きた機内はさぞ恐怖しただろう。それは想像に難くない。やがて弧を描いて到達した実弾はエンジンに直撃した。この結果はハンヴィーからでも視認できた。
「よし!」
黒煙を撒き散らしながら高度を下げていくガンシップ。墜落は免れない損傷だ。機体は最後の意地で市街地を避けた郊外に墜落、爆発炎上した。残骸は落下の際に大地に押し潰され、乗員の生存は絶望的だった。