みぎうで
「来るぞ。六時からハンヴィーだ」
「配置につけ」
透視と望遠で偵察するウォードがハンヴィーを見つけた。ワーカーはウォードの指示通り、十字路の左右に壁を投影して道を塞ぎ、ハンヴィーを直進させる。このまま待ち伏せる場所まで誘導する算段だ。
「なんだかやけに横道が少ないな」
「偶然じゃないのか?」
ハンヴィーに乗車する兵員も少なからず違和感に気づく。だがわざわざ降りて調べるわけもなく十字路を直進していった。
「さぁ…来いよ」
ワーカーの口元が綻ぶ。ここからは自分の大好きなハッタリの時間だ。投影で敵の虚を突くのが何よりの快感。ハンヴィーが近づくにつれ高揚感が増していくワーカー。それを見かねたダイスが釘を刺す。
「やり方は任せるが望む結果は必ず出せ」
「分かってる」
ワーカーはハンヴィーの進路上に旧式の戦車を投影させた。十字路右翼から出てくる形だ。敵をぶち抜く火砲、半端な火力には屈しない装甲、不整地を走破できる履帯、それが合わさった圧倒的な威圧感。ハンヴィーはその前に急停車せざるを得ない。
「なんだと!こいつらこんなものを隠してたのか!」
「引き返せ!スピードで撒くんだ!」
「ダメだ!」
先程通過した道はワーカーにより瓦礫の山が積もっていた。兵員からすればいつの間にそんなものが降って湧いたのか信じられない。引き返すのは不可能だった。
「どういうことだ!?」
「見ろ!」
発砲間近の戦車。砲塔はこちらを向いている。旧式とは言えどその火力の前にはハンヴィーもひとたまりもない。
「皆降りろ!」
兵員はハンヴィーを放棄。我先にと車外へ逃げ出した。そこに降り注ぐ銃弾の雨。両サイドの民家二階で待ち伏せていたダイスとウォードによる射撃だ。窓から身を乗り出し、ライフルを指切りで三点射。的確に仕留めていく。冷静かつ機械的な仕事だ。
「クリア!」
捕捉で死亡を確認したダイス。地上で隠れていたスアレスとベイルは、死亡した兵員からマガジンを回収した。二階からロープで降りたダイスはハンヴィーの運転席を覗くと、キーが差しっぱなしであることを確認する。
「ワーカーは銃座に着け。俺が運転する」
ワーカー以外の四人は車体後部のカーゴスペースに弾薬と水を積み込む。ワーカーは一足早く車内に入り、銃座の真下で立ち上がると車体上部から上半身を乗り出してハンモック型の椅子に腰かけた。スアレスとベイルは後部座席へ、ダイスは運転席、ウォードは助手席へ乗車した。ワーカーは設置された重機関銃の給弾を確認すると慣らしで射角をとってみる。不備はない。
「威嚇射撃は投影しろ。初弾のみ撃っていい」
ワーカーは上から車体を叩く。了解、車を出せという合図だ。ダイスはアクセルを目一杯踏み、クラッチを浅く踏んでサイドブレーキを解除した。
「うぉ!」
ハンヴィーは勢いよく発進した。一瞬Gで座席に押し付けられる感覚が襲いかかる。急加速、ギアの切り替えがないことで三速発進したのだと分かった。