みぎうで


「対空砲には近づくな。攻撃に巻き込まれるぞ」


五人は脱出するための車輌を確保するために移動しなければならなかった。今まで使っていたハーフトラックでは強行突破できない上に目立つと踏んだのだ。そこで先程落としたヘリコプターの墜落現場へ向かうことになった。現場へ急行する即応部隊のハンヴィーを待ち伏せて強奪するのだ。先頭に偵察のウォード、ルートを指揮するダイス、水と弾薬を担ぐスアレスベイルを挟み、ワーカーが最後尾。


「急ごう。手順は省略する」


五人は縦列で移動を開始した。無防備なベイルとスアレスを守るように爾落人三人が立ち回り、移動を手助けする。既にあちこちで銃撃や爆音、怒声が聞こえるが捕捉と必視の力で無難なルートを選ぶ。


「早くしろ!」


民兵がシートで覆い隠していた対空砲を引っ張り出した。目の前に迫ってくる攻撃ヘリが目標だ。民兵が銃座に座り、射撃を開始する。気づいた攻撃ヘリが上昇して回避した。


『敵弾、来るぞ!』
『対空兵器を確認した。座標108.94』
『了解。108ミリで援護する』


対空砲はガンシップによる射程外からの砲撃で射手ごと木っ端微塵に吹き飛んだ。これまでの援護射撃で各地で抵抗していた対空砲や高射砲も数を減らし続けている。


『降下点確保。タッチダウン』


周回する攻撃ヘリが援護にまわりつつ、小型ヘリが空域進入、着陸と同時に両翼側の外装ベンチに座っていた兵員四人が展開し、小型ヘリはすぐに離陸した。


『制空権確保。繰り返す、制空権を掌握した』
『残存機も全て侵入。RPG(携帯式対戦車擲弾)に注意せよ』


先程の墜落現場付近にも輸送ヘリが現着した。ホバリングする機体。両翼のミニガンの射手が地上を警戒し、ロープを吊るすと兵員が順番に降下していく。降下中の兵員を狙って傭兵が銃撃してくるも、ミニガンの射撃で蜂の巣になった。


「GO!GO!」


地上ではあっという間に彼方此方で銃撃戦が発生した。建物には潜む民兵によるゲリラ的な攻撃に苦戦しながらも冷静に跳ね除け、侵攻する兵員。
対する民兵側は、ラシード派の軍人がそれぞれを率いて応戦していた、思いの外統率の執れた攻撃をする民兵に苦戦を強いられている兵員。正規の訓練を受けていないからこそ白兵戦の恐れを知らない民兵は思い切りのよい攻め方をしていた。勇気のある馬鹿者ほど面倒なものははない。民兵は子供まで動員する大混戦であった。


「待て」


五人は兵員を避けながら移動を続けている。ダイスが捕捉で周辺を警戒、ウォードが透視で敵味方を識別してルートを決定していた。
ダイスは上空から接近する二人の人間を捕捉した。


「上空から二人、恐らくヘリに乗っている」
「…リトルバード、ミニガン装備」
「隠れろ」


近くでは、民兵がホテルの屋上に直列に並んで眼下の兵員めがけて銃撃していた。そこに持ち前の機動性で急接近する小型ヘリが、屋上の民兵めがけてミニガンを掃射した。民兵だけでなく武器をも粉々にして通過した小型ヘリ。兵員はジェスチャーで礼を示す。ダイス達に気づかない小型ヘリはそのまま飛び去っていった。


「行こうぜ」
「まだだ。左翼の向こう側をレンジャーが前進している。このままでは先の十字路でかち合う」
「確認した。スリーマンセル、ツーセット。SAW(分隊支援火器)なし」
「どうするんだ?」
「先行して壁を投影しろ。やり過ごす」
「あいよ」


五人にとって戦うのは簡単だが今は弾の消費と時間をかけたくはなかった。投影ならではの的確な指揮だ。ワーカーもそれを納得して二つ返事で従う。ダイスを格上と見なしていることが分かる一幕だ。


ワーカーは十時路の合流地点に壁を投影、まるで元からがT字路であるかのように偽装した。その壁は街の雰囲気に合わせたデザインで、破損や経年劣化を考慮したその場凌ぎとは思えない一品だ。兵員はこちら側へのルートに気づかず通過し、五人はやり過ごすことに成功した。


「行くぞ」


壁を消し、今度はレンジャーが通過した側のルートに向けて壁を出した。レンジャーが振り返って出現した壁に気づけば面倒なことになる。そうなる前に五人は壁の向こう側を一気に通過すると同時に投影を解除した。
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