殺戮者の遺産


『現在C区画にて交戦!3m級が一体。増援求む!』


某国某所。指示されるがまま特殊部隊は研究施設に突入していた。遭遇した研究員の降伏すら許さず検体含めて破壊していくのが任務だ。途中で防衛用の兵士と思われる者が立ちはだかったが特殊部隊の前に壮絶な銃撃戦を繰り広げては突破を許していた。しかし特殊部隊側も人的損耗が随所に見られ始め、このまま施設を制圧するには心許ない戦力に落ちつつある。


『ぐがあぁぁぁあ!』


おぞましい叫びをあげたミステイカー、ゾンボーグ。天井の高い地下倉庫に反響する声は侵入者の戦意を削ぐに十分だ。首のない顔には髭のように生えた骨が剥き出しで三対存在していた。これはミステイカーではあるが見た目とサイズに人間の面影がないため素人に「G」との区別がつかないだろう。


「来るぞ!」


ゾンボーグは左腕を伸ばすと左翼側から隊員をなぎ払う。途中あったコンクリートの柱ごと砕き、射撃姿勢にあった隊員をボディアーマー越しに殴り殺すと血塗れの腕を元の長さに戻す。幸い直前のタイミングで身を伏せてかわした隊員がいたが今ので六割が犠牲になったようだ。


「誰か擲弾使え!奴を吹っ飛ばせ!」
「大尉!指揮車より撤退命令です!」
「なに!?」
「チームブラボーとチャーリーが全滅しました!後は我々とチームデルタが数人だけです!」
「クソ!撤退だ!SAW(分隊支援火器)持ちは援護しろ!」


後衛に控えていた機関銃を持つ隊員数名が前に出る。ハンドルを掴み腰だめに構えてフルオートで撃つ姿は非常に頼もしいはずなのだが相手がミステイカーだと話は違ってくる。ゾンボーグの顔面と脚を狙って撃っているが有効打にはならない。だが足止めにはなっているようだ。


「退け!退け!」


特殊部隊は撤退していった。最後尾の隊員が去り際にありったけの手榴弾を置いていくとゾンボーグは追撃を諦めた。


「…終わった…?」


倉庫の隅に陳列されたホルマリン漬けのミステイカー達の陰から息切れしたレディアが出てきた。ここを突破されていれば敵にすぐに見つかり蜂の巣にされていただろう。彼女の能力は抹消だが戦闘では応用の効かない微細な力。先程まで戦っていたゾンボーグはというと膝をついて倒れ込むと人間の姿に戻った。戦闘力はそこそこあるのだが戦えるのは時限式だ。


「この…どいつもこいつも邪魔ばかり…!」


安全が分かった途端に疲れが押し寄せる。前触れもなく自分以外の仲間は殺された。元々使えない人材ばかりだったがそれでも頭数にはなった。しかし今日の急襲が決定打となり彼女の悲願は暗礁に乗り上げる事になるだろう。


「アルマ様…私は…」


レディアは途方に暮れる暇もない。彼女は倉庫出入口にある備え付け端末が起動しているのを発見した。この端末からはセキュリティレベルが低いものに限られるが情報を閲覧する事がでいる。嫌な予感が過り内容を確認するとページが開かれたままだった。


「!」


内容をコピーされた痕跡はないが明らかに情報を覗かれた。理解した瞬間怒りが湧き上がる。先程の急襲も相まって彼女の中で負の感情が渦巻いた。自分の努力の結晶を見ず知らずの輩に見られたのが許せない。まるで自分の裸体を覗かれるのと同義だ。決意したレディアの声は一際低かった。


「必ず探し出して始末してやる…」


2028年3月、運命の日の出来事であった。
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