みぎうで


ラサットにある王宮。本来警備が厳重なここは国葬が執り行われてからまだ記憶に新しい。白を基調にした荘厳な造りの王宮を囲むように正規軍兵士が絶えず巡回していた。


ここの執務室には二人の男が詰めている。正確に言えば一人はまだ高校生程度の少年と、もう一人はシワが目立ち始める初老の男である。


今、クレプラキスタンは混乱の渦中にあった。正規軍の四割が離反し、戦力は弱体化。その際に秘宝を持ち出されてしまった。国内では略奪やラシード派の民兵によるゲリラ的な襲撃が後を絶たない。食料の供給さえ危うくなりつつあり、次期国王のアル・クレニスタと王室補佐官のハビーブ・サマターは頭を抱えていた。


事の始まりは一ヶ月前、狙撃で国王の父と王妃の母が暗殺されたのが発端であった。狙われるはずもない、全くのノーマークの方向からの狙撃。当時狙撃地点と国王は直線距離において二キロ近く離れており、天候も良くはなかった。そして大勢の国民が見守る中、演説中に眉間を撃ち抜かれ即死。後方で見守っていた王妃も間も無く飛来した弾丸が胸に命中して死亡したのだ。劣悪な条件で弾丸の軌道の誤差を計算した上での狙撃、さらに入り組んだ建造物の隙間を縫って放たれた正確無比な狙撃である。まさに神業に近い腕で狙撃されたことが判明している。


現在主犯は分かっているが、実行犯が特定できていないでいた。そんなに腕の立つスナイパーがこの国の軍にはいないとされているからだ。いればとっくにプロパガンダに利用されているはずで、人知れず養成されたラシード派兵士であるとの見方が強かった。


「アル王子?」


アルは悲しみに暮れている暇はない。今こそクレニスタ家は健在であると国民に、そして世界に示さなければならなかった。そのためにもこの混乱を収束させなければ。しかしアルはまだ齢十代後半でしかない。正しい血筋で長男であっても、一国の主人としてはあまりにも若すぎる。


「サマター、もう余は国王だ。国王にならねばならない」
「失礼しました、アル国王。先週迎え入れた米国陸軍ですが、動きがあるようです。どうやらラシードの尻尾を掴む手掛かりを見つけたようです」
「そうか。批判されてでも米国を受け入れた甲斐があればよいのだが…本当にリスクを背負ったリターンは大きいのか?」


サマターはアルに言い聞かせる。自信をつけさせるためにも、ここは口籠るわけにはいかない。


「はい。初めは内政干渉だと批判されましたが、米国政府の後ろ盾を得られれば反対勢力を一網打尽にできるでしょう。さらに残された正規軍に米軍が軍事教練を施してくれる上、払い下げの兵器も手に入りむしろ軍備は強大化できます。一気に装備の近代化が進むことでラシード派とも差がつきます。それに米国がしくじろうと後続の国連が解決してくれますよ」


サマターはアルの親の代からクレニスタ家に仕えている補佐官であった。主に政治において助言、提案を行なっていた。その手腕と人柄から父とも絶大な信頼関係で結ばれており、一人残されたアルの心の支えになる男であった。肉親を失った今のアルにとってどれだけ頼れる男だろうか。


「先を見据えた采配なんだな。今後も案があれば余に遠慮なく進言してくれ」
「はい。この困難を共に乗り切ってこの国を立て直しましょう」
「頼りになるよ、サマター」


サマターは微笑みかけた。だが一瞬、何かを企てる悪い顔になったのを、アルは気づかない。
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