決着の日~2028~


綾と一樹がボディガード応援に出た一方、凌と八重樫の二人はATMへの現金輸送を担当部署から頼まれていた。二人は周回を終えると社用バンで会社の地下駐車場へ帰還した。終業時間10分前の到着。スムーズな仕事運びである。凌はエンジンを切りドライブレコーダーの電源が落ちたのを確認すると助手席のドアに手をかける八重樫を制した。


「どうした」
「その…この間はすいませんでした」


凌はあの日から言えなかった事を切り出した。衆目のある中昼飯を食いながらする話ではないし運転中もレコーダーに録音される都合中々切り出せずにいたのだ。


「周りが見えてなくて八重樫さんを危険に晒してしまって」


少し言葉が足りなかったがワーカーと交戦した時の事だろう。八重樫が時間稼ぎで人質交換を言い出した時は我に帰るくらいに衝撃だった。


「俺、これからも八重樫さんに戦闘を教わりたい。もっと強くなりたいんです」


八重樫に対する言葉遣いはいつも通りだったが改まった態度なのは伝わってきた。八重樫は一息置くと口を開く。


「…俺は潔白な経歴ではない。それこそ金さえもらえば非道な所業もこなしてきた身だ。それでもいいのか?」
「いいんです」


凌は言い切った。


「……」
「身綺麗な爾落人なんて早々いませんよ。大事なのはこれからどうしたいかだと思いませんか?八重樫さんの詳しい過去は分かりませんが今はこちら側にいる。瀬上のように反省もせずのうのうと好き勝手やるのとは違いますよ」


八重樫はその言葉だけで救われた気がした。過去を改めてから出逢った初めての爾落人である凌。時折見せる未熟な面があるがそのやや融通の利かない真っ直ぐさは既に自分の失ったものだ。爾落人としての経歴が浅い凌を正しく導きたい。それが八重樫の願いだった。彼をワーカーと同じ道を辿らせてはならない。


「俺でよければこれからもよろしく頼む」


八重樫は右手を差し伸べた。一瞬何をしてきたのか分からなかったが握手の構えだと理解するのに数秒を要した。その瞬間凌の中で何かがこみ上げてきた。何故なら八重樫と出逢ってこの方握手は一度もなかったから。


「はい!」


凌は涙腺が一瞬でも緩んだと悟られぬよう、力強く八重樫の右手を握る。



to the next battle…
94/96ページ
スキ