決着の日~2028~
「喉渇いた…」
「勤務中は最低限に済ましなさい」
翌日。一樹と綾は仕事でボディガードの応援に入っていた。通常業務、つまり本社勤務に戻ったところを別班からの要請で赴いたのだ。警視庁退職後の転職先、警鋭セキュリティは施設警備がメインで上場したがニーズに合わせて色々な部署を増やしていき、今となっては業界大手に迫る一流企業に成長しつつある。
『マルタイ入ります』
一時は体力的に衰弱していた綾だったが時間が経てばすっかり回復。仕事中の今は黒髪のポニーテールを微動だにさせず、何事もなかったかのように任務をこなしていた。
「金属探知機ね…今時の不審者は物騒なもんだなぁ」
「無駄口叩かない」
凌と八重樫は別部署の応援へ行っている。凌の怪我も全快に近いくらいに回復はしており今日から仕事へ復帰していた。会社からは銃創を不審がられるかと思われたが防衛省襲撃の衝撃的ニュースのおかげで信憑性が増したのだ。
「去年の八代目ジェームズ・ボンドだって木のお箸で拷問にかけられたってのに…うぐ」
ボヤき続ける一樹の口は縫い付けられるように固く閉ざされた。隣にいる念力を使ったであろう犯人を横目で流し見るが、綾は何食わぬ顔で周辺の警戒にあたっていた。観念した一樹は真面目にならざるを得ない。制限があるとはいえ念力は便利な能力だ。付き合っている凌にどんな仕打ちをしているのかと思うと身震いが止まらない。一樹は同情のため息もつけず仕事に集中した。