決着の日~2028~


事務所にて、八重樫と翔子がソファに対面で座っている。外もまた快晴で今日一日も風の強い寒空だという。乾燥する室内を加湿器が時折蒸気を噴出しては暖房に加勢していた。


「顛末だけ聞けば南極の方が大変だったな」
「まったく、世界中がこれからどう復興していくのか見ものだよ。…でもこっちには味方も多いよ。今回それが分かっただけでも頑張った甲斐があるもんさ」


先日浦園を含めた面子で情報交換の場は設けられたためか今回は二人きりだ。


「違いない。知り合いでいえば月夜野の近況も気になるところだが」
「まぁ自由にやってるだろうよ。連中の刺客程度に殺られるタマじゃないだろうし」


翔子はコーヒーを啜る。今日は久しぶりに自分で煎れたみたが中々旨い。しかし桐哉のものと比べるとどうしても納得のいかない出来だ。こればかりは今後も敵わない気がする。既に彼の存在が事務所内でも大きなものとなっている数ある理由の一つだ。


「うん?うん…」


昔は料理など大して気にしなかったものだが最近は振る舞う機会が増えた。とは言っても部下二人にだけだし舌が肥える人間は桐哉しかいない。しかも目の前にいる男からは味に関する感情は読み取れず仕舞いだ。汐見のせいで自分の腕前が気になってしょうがないというのにどうしたものか。


「そういえば南極でハイダに会ったぞ」
「そうか…」


翔子がとっておきのカードを切った。だがそれでも八重樫のリアクションはあまりにも希薄だった。折角ならもっと安堵してほしかったがからかい甲斐のない男だ。


「その様子だと無事だったようだな」
「おや、分かるんだ?」
「あぁ」
「…悪いね。結局あんたの警告を伝える前に敵との戦闘になってしまったよ。ハイダも南極に乗り込んでくる始末だし。それにあんたのことは言いそびれてしまった」
「構わない。無事ならそれだけでいい。それで報酬についてだが」
「いや、今回はもらえないね」


翔子は珍しく苦笑いをを浮かべる。参ったようにソファに深く座り肩を竦める様子はすこぶる画になった。


「私にもプライドがある。依頼が達成できなかった以上報酬は受け取れない」
「……それならいいんだが」


結局何回か転移を使わせた手前手数料くらいは払っても良かったのだが、ここは翔子を尊重した。この場で無理やり金を押しつける場面でもない。これからの付き合い、行動で返していく事にしよう。


「…ではそろそろ行く。何かあれば連絡をくれ」
「ちょっと待った」
「なんだ?」
「これからどうするんだ?今後の身の振り方の事さ。差し迫った脅威も去ったわけだが」
「そうだな。俺は…」
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