決着の日~2028~
事態の収束を知った憐太郎、紀子、亜衣琉は華と響人に自宅近くまで護送され、付近のコンビニにて解散していた。三人は礼を言うと徒歩で自宅まで向かう。
「危機も去った事だしレン君に『お祝い』しようかな~?」
「レンにはいりませんから!」
「紀子ちゃんたらしょおがないよね~。夫婦水入らずで『お祝い』かな?」
「……」
「そこは否定しないの紀子?!」
三人は自宅に到着した。玄関の表札には四人の名前が、そして何より目を引くのはここ数年で追加された「能登沢紀子」と書かれた文字だ。
「ただいま!」
「ただいま~」
「おかえり。皆無事で何よりだよ」
出迎えたのは中老の男性、憐太郎と亜衣琉の実父である能登沢晋だ。穏和な表情が非日常から帰還した三人を変わらぬ安心感で包む。
「お父さん、ただいま」
紀子がそう言うと晋は照れくさそうに笑った。
一方、同じく都市部のカフェで弦義と響人が合流していた。オープンテラスのウッドデッキが海外の店舗を彷彿とさせる外資系チェーン店。響人は辺りを見回すと先に席に着いていた弦義へ手を挙げながら歩いて向かう。
「皆何事もなかったみたいだなぁ…あ、僕コーヒーください。ここの席ね」
「当たり前だ」
人通りはいつも通りで世界中の騒ぎなど一般人には知る由もない。せいぜいが防衛省で起きた襲撃事件だが話題性はあれど皆が目の前の課題に集中するばかり。所詮は遠く離れた人事なのだ。
「華はどうした?」
「もう来るよ…ほら」
「お待たせ」
華は戦闘の時とは打って変わって私服に着替えていた。青のパステルブラウスとギャザースカート、白のパンティストッキング、俗に言うカレッジガールと呼ばれるスタイルだ。
「…着替えたのか」
「一仕事終えたんだからそれはね?」
「あいにくだが褒められるほど最近のファッションに詳しくないぞ」
「分かってるって。あぁお腹減った」
「何か頼もうよ。すいませーん!フレンチトーストくださーい!」
「今は夜だぞ」
「私まだメニューも見てないのに…ほんとしんっじらんない!」
同時刻、自身のアトリエにて籠城を続けるパレッタ。退屈だった籠城生活に嫌気の差す直前に事態の収束を聞いた。するや否やン・マ・フリエを自分の影に指す。
「チェリにゃ~ん♪」
まるで幼児番組でテレビ前の子供へ呼びかけるお姉さんのようだ。わざわざ片手で頭に猫耳を作るあたりが実にあざとい。しかし誰が見るわけでもないのだがノリノリ。するとパレッタの影からゆっくりと迫り上がってきた人影。チェリィだ。彼女はキョロキョロしながら辺りを見回す。どうやらこのアトリエに来たのは初めてのようだ。
「もうおわりデスか?」
「うん、もう大丈夫。悪い人は良い人達がやっつけてくれたわ。チェリィも皆からとても感謝されてたわよ」
「それならいいんデス。ふわ~」
気を張っていた時間が長かったためか
チェリィはパレッタとそれ以上話すことはなく影に沈んでいく。欠伸を噛み殺すつもりはないらしく大きな口を開けながら反物質世界へ帰還していった。
「さぁ、私もこれからどうしようっかな?」
逸見は福江島の道路を走行していた。時間はかかったがなんとか都合をつけて帰省してきたが、滞在時間は数時間。しかし行かないよりかはマシだ。逸見は運転手に詫びてから車を降りると駆け足で玄関へ向かう。
「樹!」
「お父さん…?」
逸見の帰宅に気づいた樹。最初は現実か疑った様子だったが逸見の息の上がった様子に我に帰る。自分の父親は確かにここにいた。
「こんな大事な時に側にいてやれなくてすまなかった」
「お父さん…ボク……ボク…」
逸見は続く言葉を遮るように樹を強く抱きしめた。
「ん?もう終わりか?」
隼薙達も事態の収束の知った。張り切っていたのはよかったもののあれ以降敵の襲撃は途切れ、次第に緊張感は薄れていき今となっては座り込んで空を見上げる始末だ。女性陣はレジャーシートを広げると体育座りで女子会を始めそうな勢いだ。
『想定より早い収束だ。我々の完勝と言っても過言ではない』
「きっと皆が頑張ったおかげだよ!」
「皆さん、ありがとうございます」
「いいってことよ!「これにていっけんらっちゃー」だね~」
「「これにて一件落着」ね。ラズリー」