決着の日~2028~


防衛省から離脱した八重樫は凌、綾と合流した。光学迷彩を使っていた二人は良かったが、市街地を歩くには不審者然とした格好の八重樫は再びコートを羽織って移動した。二人共先に神奈川方面へ移動、路地裏を光学迷彩で先行していた二人だが捕捉の前に簡単に合流できた。


「見ろ」


上空をモスグリーンの大型双発ヘリコプター数機が通過した。自衛隊の治安部隊だ。精鋭は南極へ借り出されていたようだが居残りだった非精鋭の部隊がようやくの登場だ。ほぼ無人となった防衛省へ展開を開始した。


「とりあえずあの学校に入る。無人だ」


三人は休校になった無人の中学校へ入り込んだ。裏門の鍵を光刃で破壊し姿を消したまま校庭へ。施錠されてなかった体育館へ侵入すると教員事務所まで押し入る。


「少しここで休む。次の移動に備えろ」


凌は綾を椅子に座らせる。八重樫は固定電話を見つけると番号を押し始めた。


「どこへかけるんですか?」
「北条だ。お前はもう一つので岸田へかけろ」


受話器を取った凌の固定電話へ八重樫は岸田のスマートフォンの番号を入力した。


「いつの間に聞いてたんですか?」
「別れる前に浦園とな。EMPを免れている端末は岸田が確実だったからな」


八重樫の受話器には約十数秒を置いて警戒する声色の翔子が出た。職業柄知らない番号の電話にも出ると踏んでいたが正解だったようだ。


『誰だ?』
「八重樫だ。至急三人をピックアップできるか?」
『構わないよ。今どこにいる?』


八重樫は額縁に飾られた校歌の歌詞を一瞥すると学校名を伝えた。相槌を打っている電話口の向こうに誰かがいるらしく、翔子は通話を切る直前に断りを入れたようだ。八重樫は凌を見ると向こうも連絡がついたようで恐らくは一樹と状況を話し込んでいる。


「俺は怪我したけど綾さんは無事だよ。今俺達も逃げてきて隠れたとこだけどーー」


校庭に能力者の気配が現れた。八重樫は翔子へ向かってライトを点滅させると目の前まで一瞬でやってきた。視線を向ければ女優と見紛う横顔は疲労感が滲んでいる。その一方何か嬉しい事でもあったのか口角が上がっていた。


「連絡気づかなかくて悪かったね。こっちはもう収束したけど…そっちも大変だったみたいだ」
「翔子さんも満身創痍…に見えますよ」
「分かるかい?これだけハードな状況だったの  は初めてだったよ」


翔子もいつもの強者感溢れる語気が珍しく大人しい。


「積もる話はお互い有り余るようだが、手が空いたのならこっちに協力してくれ。宮代浦園と合流したい」
「場所は?」


凌が受話器のマイクを手で塞ぎながら下げた。


「連絡取れました。オスプレイは前橋上空を通過。離陸後死亡者は出てませんがあと三時間弱で燃料切れです」
「今から機内へ行くと伝えろ。驚くなとも言っておけ」


数分後、四人は校内から姿を消した。
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