決着の日~2028~
八重樫は手榴弾を目視した。特徴から見て焼夷手榴弾。起爆すれば辺り一面が火の海と化す凶悪なモデル。
「この閉所だ。あんたも巻き込まーー!」
単射。八重樫の弾丸はワーカーの頭を抜き去っていくと、これまでの行いが嘘のように呆気なく崩れ落ちた。脱力した筋肉はワーカーの自重も支え切れず立ち上がる気力を奪う。
「……」
肝心の手榴弾は消えてなくなっていた。手榴弾の投影を握る下にはリボルバー拳銃を隠していた。隙を見て脚でも撃ってくるつもりだったのだろう。八重樫は手榴弾のブラフを難なく見抜いていた。あれだけ八重樫を救うと言っておいて本気で殺しにくるはずがないと踏んでいたのだ。
「ぐ…ぉぉ…」
驚いた事にワーカーはまだ意識がある。八重樫は注意しながらワーカーへ接近するとその無残な様子が詳らかになった。
「これは…」
先の弾丸は頭へ鋭角に侵入、側頭部を抉って貫通しかけたところをヘルメットが留めていた。それでも致命傷なのに違いなく、即死しないのが奇跡的だ。
「!」
その短い余命を現すようにワーカーの左目からは血の涙を流している。悲願達成もままならない悔恨を、執念を訴えているように溢れ湧いているようだ。その一方で不思議と銃槍からの出血は少ない。それは爾落人と人間との構造が異なっているためなのか、解明する術はない。
「…俺は…あの女を殺す…」
ワーカーの唇が僅かに動いた。聞き取れないほどのか細い声だったがその怨念篭る言霊は八重樫の耳にしっかりと届いた。
「……」
八重樫はワーカーの頭に狙いをつける。至近距離のため光学照準器は使わない。
「……」
「……」
ワーカーの無事だった右眼と目が合った。向けられた銃口に自分の死期を悟ったのか、睨みつけてくる。しかしその視線はかつて仲間だった八重樫に向けられるものではなく、その向こう側にいるハイダへ向けられていた。
「ダメだ…やっぱりあの女…許せねぇ……」
叩かれる撃針。銃口より一閃。八重樫はワーカーの死亡を捕捉で確認すると踵を返す。どんな死に顔をしているのか、確認するには八重樫にとって業が深すぎた。
「……」
理由はどうあれ、かつての仲間を手にかけた。八重樫の対処がハイダにとって正しい選択だったかは分からないが、この出来事は胸にしまっておく。八重樫にとって思念の前に無駄な足掻きではある。しかしこの殺生に彼女を巻き込めなかった。だから引き金は左指を使った。
「…せめて安らかに眠っていろ」
一瞬だけ右手が痺れた気がした。