決着の日~2028~


ワーカーの荒れた精神を救済したい。その一心で技を仕込み、ここまで育てあげた。精神性の成長を初見で見抜けなかったミスが八重樫の罪だ。今やワーカーは殺しの術を身につけた獣物。自分が作り上げてしまったモンスター。自分達と一緒に犯してきた罪、袂を別ってからもさらに重ねてきた罪を償うためにもここでワーカーを始末しなければならない。しかし自分勝手な思想に他人を巻き込んでおきながら自分で手を下す事がどれだけ傲慢なのか。その罪を背負って生きるのが八重樫にとっての贖罪だ。


「……」


凌に引き際を語っておきながら情けない。しかし今回は体裁など関係なかった。八重樫はカービン銃をスイッチ、今まで右手で構えていた立射姿勢を左手で構え直した。


「…!」


走り出してすぐ面食らった。目の前は行き止まりだ。通路が伸びているはずだが不自然に壁が立ちはだかる。八重樫は躊躇いなく手を伸ばすと壁を擦り抜けてしまった。


「…やはり」


八重樫は警戒しながら壁を通過する。先には罠やワーカーが遠距離から待ち伏せているかもしれない。ワーカーの動きに気を配りながら慎重に壁を擦り抜けると、目の前はまた行き止まりだった。


「!」


ワーカーは通路に壁の投影を何重にも張り巡らせているようだ。躊躇いながら通り抜けさせて時間を稼ぐ算段か。実際のところ足止めとしては的確で、行き止まりの都度本物の壁か触りながら通過するのは時間が勿体ない。そこで八重樫のとった行動は。


「……」


壁が現れる度に発砲。着弾するか否かで投影と本物を判別しながら小走りで突破していく。弾薬の消費より如何にして素早くワーカーを仕留めるかを優先したい。


「クソ!」


ワーカーはふらつく足取りで時折壁に寄りかかりながらも一心不乱に前へ走っていた。本人も痛いからと泣き喚くような事をせず歯を食いしばって堪えているようだ。傭兵のプロ根性を見せている。しかし先程から聞こえる規則的な銃声で、追っ手である八重樫が時間稼ぎを物ともせず接近してくるのが分かった。しかも銃声の間隔が短くなっていき弾丸が近くを掠めるようになっている。次第に距離を縮めていくのが分かったのか、投影の確認とワーカーへの攻撃を同時に行なっているようだ。


「仕方ねぇ…」


ワーカーは立ち止まった。八重樫との距離が一気に縮まっていくが、ワーカーは逆に壁の投影を解除する。開かれた視界に八重樫は照準器にワーカーを捉えた。しかし咄嗟の判断で発砲は断念、立ち止まる。


「撃つと爆発するぜ!」


ワーカーの片手には手榴弾が握られている。しかもピンが引き抜かれバネを握りしめているだけ。撃たれた衝撃で手を離してしまえば八重樫を巻き込んで起爆してしまう寸法だ。
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