みぎうで
同時刻。ワーカーは拠点から少し離れた場所で他の傭兵グループと賭けに興じていた。男五人が詰める、タバコの煙が充満するむせた部屋だった。今の種目はポーカーだ。机を交代で四人で囲み、カードで駆け引きが繰り広げられる。
「フォールド」
四人の内の一人が降りた。ポーカーは正念場だ。
「…コールだ」
神妙な面持ちのワーカーはゲームを続ける。ここで感情を表情に出すのは自殺行為か駆け引きなのだが、ワーカーの場合はどちらか。それを今までの行動からミスと見た男はしたり顔でチップを出す。
「レイズ。三枚」
残るワーカーと親のレイズはない。
「もうないな?じゃあ、ショーダウン」
せりが終わった。親に従い皆が手札を公開する。
「なんてな。俺はフルハウスだ」
ワーカーは自分のカードを勝ち誇った笑みで机にぶちまけた。レイズしてしまった男は舌打ちし、親は肩を落とす。
「なんだと!」
「俺の、勝ちだな」
ワーカーの本当の手札はワン・ペアだ。こんな手札で勝負するわけもなく、ブタになり得るカード二枚に有利な役を投影したのだ。
「おいおい…」
「よぉし、もらってくぜ」
ワーカーにとって賭博は小遣い稼ぎと同時にハッタリを効かす場だ。投影を知っている仲間内では相手にされないため、こうして寄り合い所帯まで出向いて腕を振るっていた。ところがなんでもかんでも投影を使えばいいというものではない。ポーカーにおいてはいい役を演出すればする程、投影しなければならない枚数が増えてしまいイカサマだとバレやすい。他のプレーヤーと同じカードが被る可能性もあるリスキーな行為だ。
「クソ、いい勝負だったのに終盤になってツイてやがる」
「コイツ持ってんな」
「ハハッ、悪ぃな」
イカサマだとバレぬよう素で適度に負け、投影で適度に強い役を演出し、最終的に勝利する。それがやり方だ。ワーカーは取り分の金をバッグに詰めて立ち上がった。今日の余興は終わりだ。
「お前、こんだけ儲けても、使う前に死んじまったら意味がないんだからな」
「俺は死なねぇ。安心しな。儲けた金は俺が使い切ってやるよ」
「んの野郎!」
背中を向けたワーカーに、逆上した男は自動小銃をホルスターから抜き取る。男の仲間は制止する暇もない。
ワーカーは身を翻しながらリボルバー拳銃を抜き取り、構えるまでの過程で逆の腕に擦り付けるようにハンマーを起こして発砲した。一連の流れが洗練された早撃ちだ。それは男より後出しでありながら発砲はワーカーが先であった。
弾は男の自動小銃を弾き飛ばし、グリップを握っていた手から鮮血が迸った。指数本が食い千切られたソーセージのように垂れ下がり、皮一枚で手と繋がっている。男は激痛に叫ぶが、仲間は自業自得だと言わんばかりにワーカーを咎めることはしなかった。
「リーダーなら仲間のお守りくらいやりな。早くその指冷やして医者に持ってけば繋がるぜ」
「わ…悪かったな。こいつには言い聞かせておくから」
ワーカーは拳銃を収めると去っていった。尾行や報復の気配はない。今度こそ勝利に酔いしれながら歩いていく。