決着の日~2028~


「クライアントの目的か。ここの情報部員の殺害だな」
「さすがだ!さすがだよダイス。今日奴らを殺し損ねたのはあんたが一枚噛んでたからだろ?素晴らしいぜ。思念はともかくあんたの優秀さは変わっちゃいねぇ。ウォードも呼び戻してまた三人で戦争しようぜ。なぁ?」
「……」


勝てない勝負はしなかっただけの世渡りを自分達がこの世の最強だと勘違いしているだろうか。八重樫は曇った表情を見せた。


「おっと、今のあんたに言っても同意するわけーー?!」


隙を伺っていたのは八重樫だけではない。凌は致命傷を覚悟で抵抗。我武者羅に身を捩り注意を引く。少しの時間だけでも散弾銃の脅威を八重樫から遠ざけておきたい。本当に八重樫を身代わりにはできないからこそ、ワーカーを切り崩すキッカケを自分で作る。これが凌のケジメだ。


「こんの!」


この至近距離では防弾装備も役に立たない。ワーカーが銃口を凌に向けようと意識が向いた刹那だ。八重樫は腰のファイティングナイフを抜き取ると投擲した。グリップの端を指先で保持するように掴むと振りかぶって投げつける。唯一手元に残る武器をしかも本来の用途で使わない、セオリー外の一発勝負。残弾一発だけの拳銃と同義であった。


「!」


距離にしてみればマジシャンが曲芸を行う倍の長さではあったが見事にワーカーの右手へと突き刺さる。その勢いで銃口は凌から遠のき暴発した。散弾する距離もなく巨大な弾痕をコンクリートの壁へ穿つ。


「ぐぁっ…!」


銃声を号砲に凌は仰向けに寝返るとポンプアクションの隙を突いて光刃で銃身を斬る。しかしワーカーは身を逸らして距離を取ると同時に、腕だけを投影して凌の目へ指を突き立てた。目潰し行為に凌は反射現象で目を瞑ってしまい、軌道の狂った光刃はワーカーの右手へ振るわれた。結果ワーカーは右手首を失う。


「畜生がぁぁあ!」


およそ数秒の出来事。カービン銃を拾った八重樫がワーカーを狙う頃にはとっくに壁の死角へ逃げ出していた。咄嗟のだが引き際のタイミングは完璧。残されていたのは大破した散弾銃と傷口の焼かれたワーカーの手首だけ。八重樫は再びボディアーマーを着ていると凌が駆け寄る。


「お前は二階堂を連れて離脱だ。俺は単独で奴を殺す」
「…すいません…俺…」


凌の怪我はそこまで重くはない様子だ。光学迷彩で逃げる分には問題ないだろう。八重樫は矢継ぎ早に指示する。


「話しは生還してからだ。自分で止血して行け。動けるな?」
「はい」


凌は脚を引きずりながら元来た通路、綾の隠れているフロアへ小走りで戻っていく。八重樫は前進、ワーカーを追う。
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