決着の日~2028~
凌は攻撃より先に回避を選んだ。弾丸と銃声はほぼ同時に、凌に喰らいつくように迫る。
「!」
銃なら射撃手から点の直線上を避ければいい。しかし散弾銃だと話は変わる。面で迫る弾丸を躱すには凌の周りにやり過ごせる掩蔽物はなく、死体を盾にする強かさはまだ身につけてはいない。よって被弾は免れなかった。
「がはっ!」
凶悪な面制圧が猛威を振るう。右脚を被弾して自由を削がれるが、倒れ込んだ勢いを利用して物陰に転がり込んだ。左手から光弾を乱射してワーカーを牽制するが、当の本人は涼しい顔で死体を盾に移動する。光弾は肉塊に食い込んで消滅するばかりで攻撃は届かない。焦る凌が片脚を庇いながら立ち上がろうと重心を上げるが、途端に間近で着弾。散った火花と銃声で今度はうつ伏せで倒れ込んでしまう。
「おら!」
攻め時。同時に弾切れになったワーカーは死体を捨てて走り出し、その右足で凌を背中から踏みつけた。踏破性の
高いブーツの凹凸ある靴底が凌の背中を抉る。その衝撃で内臓が揺れた。
「ぐっ…」
「ハッ!」
呼吸が遠のいた凌を鼻で笑い、ワーカーは散弾銃のマガジンをリリースした。落下したマガジンに装填の隙を察知した凌は全身を眩く発光した。
「その手はもう見たぜ」
目眩しを予期していたワーカーをその瞬間だけ目を瞑ってやり過ごし、その間も手を止めず予備マガジンを取り付ける。凌の悪足掻きは空振っただけだ。ワーカーは凌が装着していたゴーグルを引き剥がす。
「やっぱりサーマルイメージャーか。投影の武装兵対策だろうが能力を使うまでもなかったぜ。ライトセーバーは大したもんだが関節の可動範囲外なら脅威じゃねぇな」
ワーカーは周辺の景色を自分に投影して姿を隠していた。動きながらリアルタイムで投影し続けるのは難があるが動かず待ち伏せする分には上手くやれるだろう。凌と相対して得た着想だ。あれは自分だけでは永遠に思いつかなかった。
「お前のおかげでいいモンを覚えた。それだけは礼を言うぜ。さぁ、一瞬で逝ってくれ」
「!」
殺される。うつ伏せで押さえつけられれば光撃で反抗できない。途端に凌は血の気が引いた。指先と爪先から急に生気が吸い取られていくような錯覚。まだ撃たれてもいないのに視界の端が赤く染まっていく気がした。その先に見えたのは走馬灯。残してきた綾と師としての八重樫。
「ワーカー!」
「!」
ワーカーは自分を制した懐かしい声につい、凌を見下ろしていた視線を見上げる。